SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

評価

 答えなんてないのだと。だからこそ、今正しいと思えることをして。しっかり生きて欲しいと。

「姉さん」

 守人は小さく呟いた。まっすぐに自分を見つめてくる姉を見て。

 麗華は真面目な表情のまま小さく笑うと立ち上がった。

「君はよくやったわ」

 そう言って麗華は部屋から出て行った。静かに扉が締められる。

 彼女の登場に二人はしばらく黙り込んでいた。気圧されているえあけではないが、彼女の言葉にはそれだけ重い存在感があったのだ。

 それもようやく薄れていき獅子王が口を開く。

「すごいな、今の台詞を言うためにずっと待ってたのか?」

「宋作」

「悪かったよ」

 獅子王は両手を広げおどけて見せる。その後姿勢を整えた。話を戻し表情も引き締まるが、さきほどよりも雰囲気は柔らかいものになっていた。

「まあ、なんだ。これ以上私から言うのはやめておくがな、とりあえず危険なことはやめてくれよ。そっちの方が私はうれしい」

「分かってる。すまないな。今度こそ約束を守るよ」

 守人からの謝罪と宣誓。以前の時と変わらないが、同時にこれくらいしかできることもない。獅子王はため込んだ息を吐いた。

「ふぅー……。まあ、いいさ」

 この話はこれで終わりだ。長々しては彼女の立場もないし、そこまで意地の悪いことはしたくない。分かったと言ったのならよしとすべきだ。

 それで獅子王は他に思っていたことを話した。

「それにしても今回の件、牧野指揮官の判断は意外といえば意外だった。彼女はもっとこう、厳格主義者で柔軟な対応はできないと思っていたんだが」

 牧野とて守人の嘘は見抜いている。それが分かっていた上で処罰を見逃した。普段厳格な態度の彼女にしては珍しい。

「明らかな君の規則違反。本来なら彼女も罰則を科していただろうが、今はそのような時ではないからな。あくまで原因を別にして遠回しな注意で留める。それに今回の件はいくつか条件が重なって起きた出来事だ。とりあえず保留でも現状は問題ないと考えたのだろう」

 ここで守人の命令違反を裁き、彼を独房なり自室待機にしても作戦の遅延を招くだけだ。原因も条件が重なった特殊なケースであり、急ぐ必要はないと大目に見たのだろう。大局的な判断だ。

 獅子王は感心したように言う。

「現場をよく理解している」

 厳格なだけでは物事はうまく回っていかない。四角い箱よりも転がすなら丸いボールだ。

「でなければここの副官など務まらないだろう」

「それはそうだが、なかなかそれを判断できる者は少ないんだがね」

 臨機応変な判断を見せた牧野を獅子王は高く評価しているようだった。

 またもう一つ、気になっていることを話し出した。

「あとは相手の能力のことだ。君が戦ったエリザベスだが、あれほどのG4がすでに完成されていたのは素直に驚きだ。同時に脅威だぞ」

 むしろ重要なのはこちらの方だ。

 エリザベス・アシュリー。砂や地面を自在に操り攻防一体の戦術を見せたアメリカのG4。今回はなんとか勝てたもののあれはかなりの強敵だった。なによりその脅威はタイマンよりも多勢を相手にした時だ。

「個人戦もそうだがこと戦争という観点から見れば彼女はとても優秀なG4だったんじゃないのか? 防衛なら竜巻と沈下。侵攻なら地震。制圧力でいうなら守人君、彼女は君を上回っている」

「実感している」

 獅子王の言うことに守人も首肯した。

 相手が戦闘機やヘリでこようものなら竜巻を張ればいい。戦車や歩兵なら地中にご招待だ。侵攻ならさらにシンプル。相手の国を文字通り揺すってやればいい。

 アメリカやロシア、中国などのどんな大国だろうが地震を防ぐ兵器はない。防空ミサイルシステムはあっても地震を起こされればひとたまりもない。

 彼女は戦略兵器として完成度がとても高かった。彼女の能力は今の環境に刺さり過ぎている。

「あんなのがぞろぞろ出てみろ、どこが対抗できるんだ」

「確かにな。だが数は多くないはずだ。離反や反逆に対処できない」

「なるほど。見たところ首輪はなかった。手綱がなければその線も現実的だが油断はできんな」

「しょせんは推測か」

「そういうことだ」

 他国のG4事情。同業として関心は尽きない。なにより命のやり取りをするかもしれないのだから嫌でも気になる。

 だが、それもこのときは後回しだ。それよりも戦う相手は別にいる。

 獅子王は背もたれに体をあずけ、視線を下げた。

「彼女と組めればよかったんだがな。今後のことを思うと今回の一件はかなり苦しい」

 当初の予定では彼女と組むことだったわけだが、それも次の対戦相手を倒すためだった。相手にその気はなかったみたいだがこの提案自体はとても理に適ったものだ。

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