SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

人生の言葉

 会議室での報告は終わり解散となってから、守人は獅子王の部屋の前に来ていた。中には獅子王がいる。

 このまま終わるわけにはいかない。自分は彼に言わなくてならないことがある。その気持ちが守人に扉をノックさせていた。

 扉が開き獅子王が守人を見る。

「やはり君か」

「まあな。その」

「外ではなにかとまずいだろう、中で聞こう」

 この件は獅子王のミスということになっている。その相手に守人が謝るというのは矛盾してしまう。なにかとまずいというのはそのことだ。

 守人は部屋の中へと入った。以前来た時と同じベッドの上に腰掛けた。獅子王は机の前の椅子に座る。

 守人は正面を獅子王に向けると申し訳なさそうに話した。

「宋作。その、悪かったな」

「まったく。勘弁してくれよ。言っただろう守人君」

 それに対し獅子王はやれやれと、僅かな怒りを混ぜながら守人に向き直る。

「こんなことはなしだと。これじゃオールド・マンと同じだ」

「ふぅー」

 そう言われ守人は息を吐いた。そうだった。忘れていたわけではないのだが言われてみればその通りだ。どちらも自分を、今回は味方まで危険に晒している。

 規則だけでなく彼と交わした約束も破ってしまった。それを自覚して守人はさらに申し訳なくなる。

「……そうだったな。すまない」

「まったく」

 守人は顔を振りながら下を向く。本当に申し訳ない。それは獅子王にも伝わっているようだった。申し訳ないと心底思う。

 だが、思っているだけでは駄目だ。

「本当に分かっているのか?」

 以前、オールド・マンとの戦いではあわや死にかけた。注意だってした。にも関わらず今回のこれだ。獅子王は確認する。

 そのことに守人は自信をなくしていた。

「……正直、分からなくなっている」

 戦う覚悟はできていると思っていた。はじめての経験ではあるが、戦場に出れば自分は迷うことなく戦えると。何度も戦う場面を想像し、戦場で戦うことの心構えは事前にしていた。

 だが、いざしてみれば不祥事の連続だ。

 自分が想定していた覚悟では足りなかった。ただ敵を倒すという決意だけでは戦えない。

 相手は敵だ。だけれど、心がないわけじゃない。仲間ではないとは限らない。彼女のように、共感を覚えた人でも敵になることはある。

 そんなこと、考えたこともなかった。自分の想像ではそこまで行き届かなくて、遭遇する未知の場面に狼狽えている。

 自分が抱いていた覚悟だけでは駄目だった。

「宗作、教えてくれ。俺にはなにが足りない?」

 ではなにが欠けているのか。

 覚悟。決意。非情さ。なんでもよかった。納得できるできないは別として、今の自分になにが足りないのか、それが知りたかった。

 もう、誰にも迷惑はかけたくない。危険な目にも遭わせたくない。

 その時だった。部屋の扉が開けられる。

 入ってきたのは、麗華だった。

「なにもないわ」

「姉さん?」

 突然の入室に守人や獅子王は面食らうがそんな二人を麗華は無視する。 

 麗華は部屋に入るなり守人の前に立った。そして膝を降り顔の位置を同じにする。

「君はそれでいいわ。それでいいのよ」

「だけど」

 麗華の表情は真面目だった。おふざけなんてない、彼女のまっすぐとした瞳が守人を見つめている。

「無理して変わろうとしなくていい」

 麗華は守人の肩に手を置き、話した。

「人生なんて終わりの見えない巨大な迷路よ。答えを出して扉をくぐった気になっても、あとになって間違いだったと気づく時もある。その逆だってある。いい、守人君」

 守人は黙って聞いた。彼女の言葉を。落ち着いた声色には麗華の気持ちが乗せられていて、守人の心に渡された。

 彼女の人生は巨大な迷路のまっただ中だ。弟を守ろうと騎士になって、今まで努力してきた。その時はそれが正解だと思っていたが、しかし彼は望んだ人生とは別の道を進んでいる。

 覚悟と後悔。そんな感情の繰り返しを経て、それでも彼女は進み続けている。出口のない迷路を、それでも懸命に歩む。

 これはそんな女性が、悩む弟にかける教訓のような言葉だった。

 それが、

「答えなんてない。だから、悩むのではなく、今をしっかり生きて」

 答えなんてない。今までの人生をまっすぐ生きて、必死に生きてきて。そんな女性でもそう言った。

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