SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

釈明

 守人は訓練施設に着くなり会議室へと呼ばれていた。そこには麗華や獅子王、送迎を担当した藤森やその部下。そして牧野が鋭い視線で守人の入室を待っていた。

 守人は会議室の中央に立つ。生きての帰還だがここに歓喜のような空気はなく、反対にピアノ線のように張った雰囲気があった。

 守人は目だけを横に向け藤森を見る。彼は飄然とした顔を守人に向けたまま壁に体をもたれかけている。今にもたばこを取り出し火でも付けそうな彼だが、あくまでそれは見た目だけだ。

 彼の手は拳銃に添えられていた。

 不審な行動をとれば撃つ。これは警戒の証だ。ボディーガードが上着のボタンを外しているように、それよりも直接的な威嚇をしている。

 そしてそれは藤森だけでない。ここにいるほとんどの人間が守人に不信を抱いた眼差しを向けていた。

 していないのは、麗華と獅子王くらいだ。

「報告してもらいます、守人」

 ホワイトボードの前に立つ牧野が聞いてくる。眼鏡を被った両目がいつも以上に鋭い視線を向けてきた。

「通信が途中で切れたようですが、なにがありました?」

「…………」

 そこには虚偽を許さない凄みがあった。守人は一拍の間の後話し出した。

「……彼女と交戦中、突如通信が途絶。その隙に彼女は逃走しその後藤森の部隊と合流。帰還した」

「それは本当ですか?」

 守人の報告の後空かさず牧野が確認してくる。

 途中で通信が切れたと守人は言うがそんなもの普通に考えてあるわけがない。守人が吐いた嘘はバレバレだ。

「映像では君はあと一手で敵を倒せる場面でした。その局面で通信が偶発的に切れたと?」

「……そうだ」

 それが意味することは、敵を見逃した、ということ。規則違反であり、なにより敵を生かすなど利敵行為であり裏切りだ。遠回しに自分たちを攻撃してきたのと変わらない。

「…………」

 守人は無言のまま牧野を見ていた。ここでなにを言ったところで手遅れだ。おまけに他に術があるわけでもない。

 言い逃れはできない。覚悟はできている。どんな罰だろうが甘んじて受け入れるしかない。

 そこで牧野が声をかけた。

「獅子王」

「はい」

 それは守人ではなく獅子王だった。牧野の鋭い視線が彼に向けられ、獅子王はうつむきながら返事をする。

「今後このようなことがないよう、注意してエフェクトの調整を行え」

「了解した」

「?」

 守人は目を疑った。顔がわずかに歪む。

 牧野は自分を叱責するのではなく、獅子王に対して注意をしている。それに対して獅子王も自分のミスとして受け答えしている。

 守人は背後を振り返り辺りを見渡した。誰もこのことについて指摘する者はいない。

 馬鹿な。どう考えてもこれは守人の意図的な通信遮断だ。それが分からないほど間抜けな連中ではあるまい。

「守人」

 ここで一番不審な自分の名前が呼ばれ守人は牧野に向き直る。

「獅子王には私から言っておきますので。今後このようなことは『二度と』ありません。安心して任務に励んでください」

「…………」

 彼女の言い方には含みがあり、それで守人も察する。

「意味は分かりますね?」

「……ああ」

 見逃された。利敵行為に対する厳罰を科すのではなく、技術者への指摘に留めた。

 守人はなんとも言えない、複雑な気持ちだった。よかったとも悪かったとも言えない。

 ただ申し訳ない気持ちと、後ろめたい気持ちが混濁となって守人の胸に沈殿していた。

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