SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

エリー戦 7

 そして、それを否定できる実力が自分にはない。エリーは視線を落とした。

 完敗だ。力づくで倒すことも、力づくで殺されることもこの男にはできない。

 悔しい。悔しい。

 けれど、その思いはふっと霧散した。

 エリーは、表情を崩した。

「ずいぶんと甘い男なんだな、日本のG4は」

 その顔は、吹っ切れ笑っているようだった。もはや喜劇かなにかのような感覚なんだろう。普通あり得ない。こんなことがあるか? G4だぞ? 今後戦場を席巻し軍事世界に君臨する次世代の兵器だ。

 その二つがぶつかって、見逃される? ギャグかなにかだ。コミックじゃないんだぞ。

「まさか、お前みたいなのがいるとはな」

 ここまでくると清々しいほどだった。怒りすら忘れる。 

 守人は歩き出した。彼から言うことはない。それにここに長くいるのもよくない。通信が切れたことですでに藤森が来ているはずだ。この場面を見られるのはまずい。

 守人は彼女に背を向けここから立ち去ろうとした。

「ファースト」

 そんな彼を、エリーは呼び止めた。

 守人の足が止まる。振り返ることなく背中を彼女に向けたまま。

 彼女は、彼に言った。

「好きにしろ。お前は、お前の信じる道を往けばいい。それが私の言葉だ」

「……ああ」

 それは、親愛すら感じられるものだった。

 はじめて共感を覚えるG4だった。もし味方として出会っていればいい戦友になっていたかもしれない。

 けれどそうはならなかった。彼女との出会いは敵であり、戦いでしか自分の意見を伝えることができない。

 ただ、二人は出会った。兵器としては不安定な二人が。出会うことなく、知らぬまま終わる人生だってあったはずなのに。それなのにこうして出会うことができた。

 それは、幸運なことだったのかもしれない。

 守人は飛んだ。藤森のヘリが離れていった方角へ飛行しこの場から姿を消す。

 そんな彼の後ろ姿を、エリーはずっと見上げていた。最後までどんな姿かは分からなかったが、彼という存在が遠ざかっていくのは分かる。

 戦いは、終わった。

 しばらくして味方の部隊が近づいてきた。自分から距離を置いた場所で止まると、上官である男性が一人で近づいてきた。座り込むエリーの正面に立ち、彼女を見下ろす。

「君には期待していたんだがな」

「すみません。負けました」

 上官から落胆した声が聞こえる。エリーは目を伏せた。自分は負けた。その事実は変わらない。生き残っていても戦果はゼロだ。

 敗北。初めてのG4戦は黒星スタートだ。不甲斐ない結果になってしまった。

 けれど、終わりではない。彼女はまだ生きている。生きているなら次がある。次で結果を出せば帳消しだ。その次も結果を出せば成功だ。

 G4としての、意義を出すチャンスはまだこれからだ。

「なにを言っている?」

「?」

 その時、言われた上官の言葉にエリーは顔を上げた。一瞬、なにを言われているのか分からなかった。

 けれど、その意味を直後理解した。

「我々合衆国の兵器はどの国よりも優秀だ。そのG4が他国のものと戦い負けるはずがない」

「上官?」

 上官の男は淡々とした口調で述べると、片手をエリーに伸ばした。

 その手には、拳銃が握られていた。

「我々のG4が敗北したなどという事実は存在しない」

 銃口が、自分の顔に向けられている。

「……ふ」

 その光景に、彼女は笑った。

 ――私は、なんのために戦うのか?

 彼女は軍人だ。なら軍人の務めはなんだ? 国民を守ること? それか国を守ることか?

 国のために戦い国のために死ぬ。なら、ここで死ぬのは正しいことなのかもしれない。ここで死ねば国の名誉が守れるというのなら、国のためと言えるかもしれない。

 国に裏切られたのではなく?

 頭に過ぎる思考が乱雑になっていく。

 なんのために戦い、なんのために死ぬのだろう。この戦いに、この死に、なんの意味があるのだろう。

 私の誇りは、どこにあるのだろう。

 まあ、いい。彼女は突きつけられる問題を放り投げた。

 私は負けた。だから死ぬ。それだけの話だ。 

 だけれども、失うだけではなかった。

 私が戦い、私が負けた相手。その相手が、あんなにも甘い男だったのだ。あんなやつに出会えたのだ。

 それだけでも、いい話だ。

「そうだな」

 エリーは、微笑んだ。

 銃声が、鳴った。

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