SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

エリー戦 6

 この場面を牧野だけでない、麗華も獅子王も、司令部にいる誰もが見つめていた。彼がどうするのか、はたしてやれるのかどうか。その行動を見守っている。

 守人に多くの期待と疑念が集まっていた。

 それを守人も分かっていた。ここでやらなくてはならない。それは分かっている。

「――――!」

 その時だった。司令部に届く映像が突如切れたのだ。

「何事だ!?」

「ファースト!? ファースト! 返事をして!」

 この事態に牧野が状況報告を迫る。麗華は守人へ必死に呼びかけるが画面は暗転したまま、返事もない。

 通信途絶。守人との繋がりが切れた。

「藤森、緊急事態だ! すぐさに現場に急行、状況に応じてファーストを回収しろ!」

「了解! だが今からだと一分はかかるぞ!」

「一分だと!?」

「さっきまで砂嵐だったんだ! 今向かってる!」

「くそ!」

 司令部では突然の音信不通に騒然としていた。

「獅子王! どういうことだ!?」

 すぐさにエフェクトスーツの開発責任者に追求が向かう。

「なぜ通信が切れた?」

「……まさか」

 獅子王は牧野の怒声には振り向かず絶えずパソコンの画面を注視している。

「向こうから意図的に切られたとしか思えん」

「なんだと?」

 牧野が獅子王に近づいた。机の対面に立ち彼を見下ろす。

「そんな仕様があるなど聞いていないぞ」

「私だってそんな機能を付けた覚えはない。エフェクトスーツ最大の目的は拘束と監視だと聞かされていたからな。だが」

 そこで言葉を切ると獅子王は険しい表情のまま答えた。

「エフェクトとは一種の生命体。使用者と同調しているのかもしれん。そうならないよう制限はもちろんかけているが、使い手がアザゼル因子保有者だからな。なにが起こっても不思議じゃない。フェルナンド戦でもあったがエフェクトの制限が破られ始めているのかもしれん」

 獅子王の説明に牧野もまずいと顔をしかめた。守人の能力がエフェクトを侵食し始めているのはよろしくない。

「それは確かなのか?」

「断定までは……。ただ、通信不能が外的な要因によって起きた機能不全だというのは考えづらいな。あのフェルナンドの攻撃を受けても通信機能は生きていたんだ」

 推測はあくまで推測のまま。正確な答えは分からないまま司令部は不安と情報の整理に追われていた。

 それに比べ守人たちのいるここは静かだ。時折吹く風に砂が舞う程度で、ここには守人とエリーの二人しかいない。

 守人は自ら司令部との通信を切ると念動力で彼女を地面に降ろした。本来守人の側から通信は切れないのだがプロテクトを異能で無理矢理こじ開け実行していた。これが単純な機械なら不可能だったが有機金属だから可能だった。

 エリーは四つん這いになると首に手を当てた。

「ゴホ! ゴホ!」

 ようやく解放されたことで彼女はせき込み呼吸を整えている。その後守人を睨み上げてきた。

「……なんの真似だ、ファースト。なぜ殺さない!?」

「…………」

 彼女から辛辣な声が飛ぶ。怒りすら露わにする目が守人をとらえて放さない。

 彼女にとってこれは侮辱と変わらない。なにより不条理だ。ここは戦場だというのに。こんなことをしてなんの得になる? なるわけがない。むしろその逆、危険を増すだけだ。

 守人のしていることは善行でも立派な行いでもなんでもない。戦場では最悪の悪手。仲間を危険に晒す、裏切り行為だ。

 だからエリーは言う。侮蔑と蔑視を混ぜて守人を非難した。

「…………」

 だけど。

「ふざけるな、私には殺す価値もないと? 敵に情けをかけてなんになる? お前のそれはただのエゴだ、お前だけじゃない。味方も危険に晒す行為だぞ! 分かってるのか!?」

 エリーは批判する。痛烈な指摘が守人に浴びせられる。

 だけど。

「…………」

 守人は、答えない。

 黙ったまま。反論も言い訳もしない。

 黙ったまま、自分の意見を貫いていた。

「それが、お前の答えか?」

 返事のない守人にエリーはこれが答えなのだと察する。言葉ではなく、行動が雄弁に語っている。

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