SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

エリー戦 5

 守人は手当たり次第に攻撃を開始した。駆けつけるなり殴る。もしくは蹴りを入れ破壊する。砂は崩れ激しく飛ぶがどれも外れだ。彼女はいない。

 そうしているうちにダミーの数はみるみると増えていく。このままではまた地中に潜られてしまう。

 このままではこの戦いは終わらない。こんなことをしている場合ではないのに。

「エリー! 聞こえているだろう!」

 守人は砂漠を走った。目につく固まりを片っ端から殴り、次の標的に駆けつける。

「まだこの国にはSCPが残っている。そいつは今も人を襲ってる。止めなくちゃならないんだ!」

 辺りを見渡せば三十近くにもなる砂の山ができていた。ヘルメットに隠れた表情が歪む。嫌になる数だが止まってはいられない。すぐに守人は次へと飛んだ。
 
「俺たちがすべきことは人を守ることだろう! 今ここで戦う必要がどこにある!? お前はその力をなんで望んだ? なにに使うんだ?」

 焦燥が胸を焦がしていく。彼女との戦況が、SCPとの状況が、このままではまずいと頭を殴りつけてくる。

 なにより、

「俺たちは兵器じゃない。人間だろう!」

 これが知らない誰かならよかった。顔見知りでもベルトラムのようなタイプならよかった。命令を隠れ蓑にエゴを満たすようなやつならどれだけよかったか。

 こんなにも守人の胸が焦り、乱れるのは他でもない。

 私たちは兵器ではない。バグダッド空港で起きた惨劇の中、他の誰でもない、そう言った彼女自身がこんな戦いをしているからだ。

 それが、守人には悔しかった。

「お前の誇りは、戦場ここにあるのか!?」

 叫ばずにはいられなかった。

 その時だった。守人の感覚が一つの感情を捕らえる。

 砂漠に広がる砂はエリーの主権でありいわば体の一部だ。この砂の一粒一粒が彼女の細胞のようなもの。そのどれもが気配を持っているため本体の位置を守人の共感覚や精神感応でも探知できなかった。

 だが、今なら感じる。砂漠の中でも隠しきれないほどの強い疑念、焦り、葛藤のような心の動き。

(そこか!)

 守人は離れた位置にある砂の固まりへと走った。見える。そこから黒い湯気のようなものが砂の壁から漏れているのが。

 逃げる隙を与えない加速で迫る。守人は一直線に進み殴りつけるとそこには案の定エリーの姿があった。四散する砂をシャワーのように浴びる中守人は彼女の首を片手でつかむ。そのまま走り去っていった。かまくらから離れると彼女を地面に叩きつけすぐに上空へと放り投げる。

 彼女の体が頭上二メートルほどまで浮かぶ。守人は片手を伸ばし彼女の体を念動力で十字架の姿勢にするとそのまま空間に固定した。背中を大きく逸らし力を入れていく。

「くぅ!」

 守人のサイコキネシスが完全にエリーをとらえている。もし彼女が砂を動かそうものならその瞬間に腕や足、頸椎だろうがへし折れる。

 勝負ありだ。彼女が砂の鎧を剥がされた時勝負はついていた。

 そこで通信が入った。

『ファースト、牧野だ。彼女は敵だ、この場で撃破を』

 司令官からの敵撃破の指示。

 殺害の命令だ。

『命令です』

 牧野の声は冷徹で反対を挟む余地などないほど厳しいものだった。立場だってある。なによりこれほどの敵を生かしておけば今後どんな危険となって現れるか分かったものじゃない。それこそ拠点である訓練施設の場所が知られればこの建物ごと壊されかねない。

 彼女は殺すしかない。それほど危険だ。

 守人の念動力に体を縛られ彼女からはうめき声が漏れる。表情も苦しそうだ。

「…………」

 守人は彼女を見ず、顔はやや下を向いていた。頭上から聞こえる声を黙って聞き、彼女を拘束し続ける。

 彼女を、殺す。それは命令だ。彼女は敵だ。なにも問題はない。規則的にも道義的にもここで殺すことになんの非がある。仕掛けてきたのは向こうなのだから殺されても仕方がない。

 だからこれは必然。戦いの果てに訪れる、どちらかの死でこの戦いは終わる。

『やれ!』

 牧野から再度指示が飛ぶ。さきほどとは違い大きな声で守人を急かした。

 それけじゃない。

「やれ」

 頭上から聞こえてきた声に守人は顔を上げた。

 エリーは苦しげな顔をしながらも口を動かしていた。

「お前も……分かっているはずだ……」

 喋るのもやっとの姿勢で、それでも続ける。

「やれ……。覚悟はできている……」

 それが、エリーの答えだった。

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