SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

エリー戦 4

「私は軍人だ、命令に従い、お前を倒す。それのなにがおかしい!」

 命令が絶対だ。そこに私的な感情も意思もありはしない。どう達成するかは現場の判断ですることもあるが、なにを達成するかは司令部が決めることだ。兵士じゃない。イレギュラーの質問は場違いだ。

 だが、それでも守人は言った。

 なにより、それが胸に残っていたからだ。

「お前は以前言っていた、俺たちは兵器じゃない。人間だと!」

「…………」

 その言葉に、エリーが黙った。

 それは以前、彼女がバグダッド空港で民間人を虐殺するベルトラムに向けて言った言葉だ。命令で動く彼へ兵器ではないと、彼女は命令に背くその言葉を言っていた。

「あの言葉に俺は感銘を受けていた。素直に嬉しかったんだ。そう言える人がいたことが!」

「…………」

 守人や彼女、あのコウモリ男もすべてG4、次世代の兵器として作られた。人殺しの道具として、そのために生み出された存在だ。

 守人もその事実を認めていた。納得すらしていた。

 だがその力の矛先が無実な人に向いた時は? 兵器だからといって殺すのか?

 彼女は違った。自分たちは人殺しだけの存在ではない。人間なのだと、そう言った。

 その姿に守人は惹かれていた。その気丈なまでの信念と誇りに彼女の気高さを感じていたんだ。

 それは、お前も人殺しの道具じゃないと、励まされたような強さがあったから。

「俺たちは兵器じゃない。自分の心も意思もある。お前が軍人なのは分かっている。だが、お前と戦うのは望むところじゃない」

 彼女は強い。G4でありながら人間なんだと言えるその姿勢は立派だ。

 そんな彼女に惹かれた守人だからこそ、言わずにはいられなかった。

「俺たちが戦う相手は別だろう!?」

 彼女はただの人殺しの兵器じゃない。自分の意思がある。殺されていく民間人を止めようと必死になる心がある。

 だから守人は彼女に言うのだが。

「言いたいことはそれだけか?」

 そんな彼に突きつけられたのは、冷徹なまでの拒絶だった。

「お前の素性は知らんがずいぶん甘いな。どうしてお前のようなやつがG4になった?」

 戦場で敵の共感を得ようなど素人以前の問題だ。それが国家の重要な計画、それもG4当人になるなど人選方法に問題があるとしか思えない。

 エリーは守人を非難する。その甘さを弱さだと切り捨て、戦いへ身を投じる。

「死ね。私が言いたいのはそれだけだ」

 そう言うと砂のドームが崩れ姿を消していった。またも砂漠に隠れ、すぐに砲撃が始まった。

「ち!」

 守人もすぐに浮上する。いくつもの対空放火に襲われるのを間一髪でかわしていく。

 これではさきほどの繰り返しだ。防戦一方。攻勢に転じたくても相手の位置が分からない。大地を盾にして一方的に攻撃してくる。

 その時だった。守人に通信が入った。

『ファースト、獅子王だ。彼女が君に話しかけに来るが、おそらく呼吸の問題だろう。でなければわざわざ反撃されるリスクを犯す理由がない』

「なるほど」

 一度共に戦った仲だ。多少のやり取りくらいするだろうと思っていたが言われてみればその通りだ。

 これは殺し合い。相手が顔見知りだとしてもむざむざ隙を見せることはない。

 反撃のチャンスはある。この攻勢を凌ぎきり次の浮上で決着を付ける。

 守人は地面から放たれるいくつもの砲弾をかわしていく。さらには竜巻も発生していた。それもさきほどよりも規模が大きい。これでは砂嵐だ。ここ全域が強風に襲われ視界が砂で塞がれる。

 うまく飛行ができない。体全体を風で殴られているようだ。体が押され飛行が乱れる。そんな仲でも地上からは容赦ない攻撃が続いていく。視界が悪く、音もうまく聞こえない。

 そんな悪環境を守人を切り抜けていた。神経を集中し、風に崩された姿勢をすぐさに修正し、地上からくる攻撃を常に意識する。

 そして時間が過ぎた。

 砂嵐が退いていく。砲撃も勢いを弱め止まっていった。

『ファースト、来るわよ!』

 守人は上空から地上を俯瞰した。視界は晴れている。彼女が出てきた瞬間が勝負。

 守人は砂漠を注視する。広い場所を見渡し彼女の出現を待った。

 そこで砂漠の一カ所が盛り上がった。砂漠のかまくらだ。守人は急ぎ駆けつけるが、そこで別の場所でも砂が盛り上がり始めた。

 守人ははじめにできた砂のドームを殴って破壊する。しかし中は空だ、エリーはいない。

『ダミー!?』

 守人は急いで振り返ると背後では次から次へと砂のドームが築かれている。どれが本命か、どこに彼女がいるのかこれでは分からない。

「く!」

 彼女が定期的に浮上してくるのを読んでいたが彼女もまた気づいていたのか。自分の隙を隠すため数で誤魔化してくる。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く