SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

エリー戦 3

 なにかくる。

 ただでさえ危機的な状況だが守人の直感は見落とすことなく危険だと強烈に告げてきた。

 砂が減っていく。しかしそれは別の場所が増えているということであり、消えた大量の砂は突如として現れた。

 竜巻も砲撃も止まっていた。そんなものこれに比べればないに等しい。

 それは、砂の巨大な壁。いや。

『津波!?』

 麗華が叫んだ言葉通り、それは砂の津波だった。守人が浮かぶ高度十五メートルを遙かに越える高波。それが守人を飲み込もうとしている。

 守人は急いで上昇しようとするが津波はアーチを描きすでに守人の頭上を覆い始めている。

 駄目だ、逃げられない。飲み込まれればそのまま地中へと連れ去られる。

 ならば逃げるのではなく突破するしかない。守人は津波に向かって突き進んだ。迫り来る波に向かい全速力で走る。

 己の力を信じるしかない。どの道届かなければそれまでだ。

 守人は砂の津波と激突した。砂の激しい流れが全身に押しかかり守人の勢いを殺しにくる。

 が、守人も負けてはいられない。加速した力と自身にかけた念動力を以てして方向を保ち、彼女が仕掛けた津波に見事穴を開けた。

 津波が海に帰るように砂漠へとなだれ込む。津波はそれで終わり、竜巻がなくなったことで空は晴れ模様を取り戻す。攻撃は止まった。

「よく凌いだな」

 すると彼女の声が聞こえてきた。見れば砂漠の一カ所にかまくらのようなドームが出来ている。
 守人は地面から二十センチほどの位置にまで降下した。

「一回で網に掛かるほど柔ではないか」

「俺からスリーカウントを取りたいならまだまだだったな」

 さきほどの津波は間違いなく守人を潰すためのとどめの一撃だった。しかし決着とはいかずこうして守人は立っている。

 対して彼女は砂の中で籠城の構えだ。徹底して姿を隠している。守人の念動力や精神攻撃への対策なのは分かっているが、その壁が否応なしに敵同士なのだと突きつけてくる。

 それが、少しだけもの悲しかった。

「エリー、お前はなぜG4になったんだ?」

「なに?」

 守人からの質問に彼女の驚いた声がした。

「まさかお前から話しかけてくるとはな。おしゃべりが好きだったとは意外だよイレギュラー」

「ふん。好きに言え」

 守人は一端視線を外してから再び砂のかまくらを見た。

「それで、どうなんだ」

 意味のない会話だった。戦場で敵と話すなどあり得ない事態だ。

 だからこそ、守人の気持ちが強く出ている。

 それは戦場では異物だ。そんなものに彼女が乗るわけもなく、あっさりと断られてしまった。

「答えると思うか」

「いや、聞いてみただけさ」

 答えは肯定でも否定でもなく拒絶。しかし答えてくれるだけ温情なのだろう。こんなやり取り、攻撃とともに吹き飛ばせばいい。卑怯でもなんでもない。話しかける方が間抜けなのだ。

 そういう意味では、彼女もまた敵になりきれていないのか。

「じゃあこれはどうだ。お前はどうして戦うんだ?」

「…………」

 その時、空気が変わった気がした。彼女の沈黙が流れを変える。

「私は軍人だ。任務を達成するため戦うのは当然だ」

 一拍の後、返ってきたのは模範的な回答だ。至極当然で教科書にも載りそうな。

 しかしそれならそれでひっかかる。

 なぜ、そんな答えがすぐに出てこなかった?

 そこに、守人は彼女の迷いを感じていた。

「今も残りのSCPが町にいる。いつ暴れ出すか分からない。俺たちはこんなことをしている場合じゃない。今、俺たちが戦わなくてはならないのは別だろう!」

 熱のこもった守人の声が飛ぶ。自分も彼女も人を襲うためにいるわけじゃない。人間の脅威である本当の敵は別だ。

 SCPを倒す前に、こんな仲間割れのような真似をしている場合じゃない。

「エリー、お前はこれでいいのかッ?」

 彼女も思いは同じはず。そう思うから守人は言う。こんな戦いは無駄だ。少なくとも今すべきことじゃない。

 が、

「いいのか、だと?」

 守人の問いに返ってきたのは、怒気すら滲むエリーの声だった。守人にその気がないといはいえ今の質問は侮辱だ。

 いいのか? ふざけた質問だ。まるで自分に自由意志があるかのような、的外れも甚だしい質問じゃないか。

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