SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

提案

 特戦は他国のG4事情について詳しくない。エリーから聞かされるまでイラクで行われていた計画すら知らなかった。

 他国のG4との接触による情報入手とどこの組織なのかの特定。他にも相手の事情を乱す、そんな妨害目的もあったのかもしれない。どこまで狙ったことなのかは分からないがあの男ならそこまで考えていたとしても不思議ではない。

 麗華は聞くが牧野はいつもの稟とした表情のまま答える。

「ここで私がなにを言っても推測の域を出ない。それよりもこの提案をどう受け取るかだ」

 確かに。すんなりとは納得できないが麗華はよしとした。

「それにしてもいきなり共闘の申し出とは大胆にでたな。それも相手が相手か」

 そう言ったのは獅子王だ。イレギュラーG4など相手からすれば邪魔者だ。実際ISIL本部襲撃後の計画内容は大きな支障が出たはず。そんな相手に共闘とはお人好しか、それとも裏があるのか。

 ただの共闘はない。面子をなにより気にする国の威信がある。単独での撃破、という華々しい成果を捨ててまで共闘を提案するのは戦いの中でこちらの情報を探るためだ。それは間違いない。
 それに加え、共闘して戦いに挑もうとしている敵がまずい。

「どんなやつだ」

 守人が獅子王に振り向きながら聞く。獅子王はやつれたように肩をすくめ、けれど鋭い目で守人を見つめ返してきた。

「SCP076、アベル。人型SCPにおける最強最悪の殺人SCPさ」

 その声には畏怖が込められていた。彼には珍しい。元財団職員の彼なら多くのSCPを知っているはず。そんな彼でもアベルを語る時は重苦しい表情をしていた。

「好戦的で、人殺しを楽しむ。おまけにべらぼうに強い。できれば関わりたくない相手だ」

「あんたでもそう思うのか?」

「守人君。恐怖とは認識から始まる。それは全てのSCPのいわば根元だ」

 知っているからこそ人は恐怖する。知らなければ平然としていられるが、今ここの空気に毒ガスが混ざっていると知ればパニックになる。

 SCPとはいわばそういうものだ。裏側に潜む脅威。

 その中でも最大級に危険なのがこのアベルと呼ばれるSCPだった。

「単体での戦闘はリスクが大きい。向こうの提案は無視できない」

 獅子王はそう言って言葉を締めた。

「それで、その共闘相手についてだが画像データがある」

「なに」

 牧野はパソコンの画面を守人に向けてきた。そこに映る人物に守人の目がわずかに見開いた。なぜならば顔見知りだったからだ。

「共闘相手はエリザベス・アシュリー。あの時の女G4だ」

 そこには青い髪をした二十代の女性が映っていた。見間違うはずがない。フェルナンドを討伐するとき共闘した彼女だ。

「彼女の素性についてはすでに判明している。父親が空軍大佐だからな。相手もそれを知って接触してきたのだろう。彼女の所属は合衆国だ」

「アメリカか」

「はじめての相手じゃない。条件は悪くないわ。守人君、どう?」

 麗華が聞いてくる。強敵との戦闘。それを前提とした共闘の申し出。相手とはすでに面識もある。

 確かに、これ以上の条件はない。彼女の能力も有能性も知っている。頼れる相手だ。
 守人は伏していた顔をあげた。

「それでいこう」



『ミッションの内容を説明するわ。今回の任務は戦闘じゃない。共闘相手との接触、そしてSCPアベル討伐についての打ち合わせよ。

 集合場所はタドムル。遺跡跡地から離れた砂漠地帯ね。

 半径五百メートル先の周辺には米軍を中心とした国連軍の展開を確認済み。まあ、これくらいは当然か。

 本任務の目的は彼女との接触と最終的な打ち合わせだけど、気を抜かないで。まだ彼女が味方と決まったわけじゃない。それにこの場所、彼女の能力を考えれば絶好のロケーションよ。敵になることも十分考えられるわ。

 以上よ。言っておくけど、美女だからって油断しないでね」


 
 守人はヘリの座席に座りタドムルの砂漠地帯へと向かっていた。相手から指定された座標へと進みエリーとの再会を待つ。前屈みで座る守人は普段通りだ。落ち着いて見える。

 しかし、その胸の内ではぎこちない感情が渦巻いていた。

 共闘の申し出。それは以前彼女と行った共同でのSCP討伐、それが評価されたので信頼されたのか。はたまた別の意図があるのか。

 いったいどちらか。それは会うまでは分からない。それが守人に小さな疑念を生んでいた。

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