SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

エリー 2

 それに構うことなく上官の男は続ける。

「作戦は明日。イレギュラーG4の所属が判明した。やつは日本に属するG4だった。我々はやつを所有している特戦と接触し、SCP討伐の共同作戦を提案する。当然嘘だ。お前は集合地点に現れたイレギュラーG4を待ち伏せ、撃破しろ」

 上官からとめどなく告げられる作戦内容を冷静に理解しつつも、唖然としてしまいエリーは反論の機会を逃していた。

 上官が言い終えたことで、ようやくエリーの口が動いた。

「待ってください、イレギュラーG4が討伐対象? なぜですか?」

「やつのせいで我々の計画に支障が生じている。やつを排除し当初の段階にもっていくのが目的だ」

「それはそうですが、現在SCPは野ざらしになっており、一刻も早い討伐が必要です。イレギュラーの排除よりも民間人への犠牲や対外的な影響を考えれば、戦う相手はSCPが優先だと考えます。その目的に則れば、イレギュラーG4はSCPの討伐に前向きな姿勢を見せています。放置しても直接の被害はありません。ここは我々もSCPと戦うべきです」

 エリーは自分の思ったことを丁寧に、けれど懸命に伝えた。イレギュラーのせいで計画に支障が出ているのは知っている。だが、もともと危険な計画だった。なによりも重要なのは民間へ被害を出させないこと。こちらが勝手に始めた計画でいらぬ悲劇は起こしてはならない。

 もう一度起きているのだ、二度目を起こさないためにも真っ先に戦うのはSCPのはず。

 だが、上官の男は冷ややかだった。

「君の意見は聞いていない。それに君は一つ大事な視点を見落としている」

 大事な視点?

「この計画に我々がどれだけの資金を投じたと思っているんだ。それがイレギュラーに邪魔をされ実践テストは満足に行えずSCPを倒したという実績も得られない。そんな事態で終わってみろ。それこそ取り返しがつかん。二度も行える計画じゃないんだぞ」

「…………」

 上官の言葉にエリーは今度こそ言葉を失った。 金? その言葉がエリーの頭を鈍器のように殴りつける。

 私は、金のために戦うのか?

「…………」

 なにを言えばいいのか、言葉が浮かばない。

「それに数々のSCPやEUのG4を倒したイレギュラーG4を倒したとなれば得られる実績はSCPよりも高い。これは好機だ。他国に倒される前に我々が倒す」

 自分たちの名誉や実績のため? そのために、この地で生きる人々を危険にさらし、さらに放っておくのか?

 エリーの頭を葛藤が埋めていく。誇りを持つために戦うはずだ。誰かを守るからこそ誇りとは得られるものだ。

 この戦いに、誇りはあるのか?

「返事は?」

 エリーは目を伏せ考えていた。そこへ掛けられた上官の言葉に、彼女は重い口を開いた。

「……了解」

 自分は軍人だ。上官の命令とあらば従うまで。

 だが、心はまだ定まっていなかった。

 彼女の返事をよしとし上官は「詳細はのちほど渡す」と言い残し去っていった。上官が去ったのを見て敬礼の手を下ろす。

 その後、彼女は思い悩んだ。悩み続けていた。

 戦う理由は。誇りの所以は。誰かを守るための力とは。

 私は、なんのために戦うのか――



 イラク訓練施設、その特戦会議室にて守人はホワイトボードの前に立っていた。ここには牧野や麗華、獅子王に加えノートパソコンを叩く所員や銃器で武装した男たちが並んでいる。

 ホワイトボードのそばに立つ牧野が鋭い声で話し出した。

「先日、所属不明の者から通信によるコンタクトがあった。我々がイレギュラーG4を用いSCPと戦闘を行ったことを知っているようだ。その上で共同作戦を申し入れてきた。目的はSCP――076を互いのG4の共闘により打倒することだ」

「なるほど」

 牧野からの報告に麗華は固い表情で頷いた。

「身バレしたのは痛いけど仕方がないわね。派手にやってたし。それにバレたことでコンタクトを取ってきた。自らを餌にして食いつくのを待つ、それが賢条の狙いだったの?」

 もともとこの作戦は極秘だった。国内外問わず存在を知られるわけにはいかず、そのための準備を念入りにしてきた。

 しかし他国のG4と接触、戦闘を行った途端急遽転進。自分たちの存在が知られる危険性を犯してまで戦闘に介入してきた。そこまで積極的に参加する意図はなんだったのか、満足いく答えがなかった麗華だがこの事態になってようやく合点する。

 G4を所有する他組織との接触だ。

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