SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

異能の見解

「だがこれだけは言っておくぞ。私は、君を守るためならあらゆる努力を尽くす。そのためのエフェクトスーツでもあり、常にバージョンアップを模索している。それ以外でも君のサポートはするつもりだ。だがな、君が自ら死のうとするならそれは保証できない」

 彼もこの戦いにかける思いがある。信念や情熱、心情、いろいろなものがエフェクトスーツや守人という個人に彼なりの思いが込められている。

 死なせないと彼も頑張っているのだ。それは忘れてはならない。

「ああ、分かっているさ。それに、そんなつもりはない。ありがとうな」

「いいんだ。そんなことはな」

 そう言うと獅子王は苦笑いのような複雑な表情で立ち上がった。部屋の隅にある湯沸かし器に向かっていく。

「コーヒーだ。いるかい?」

「もらおう」

 獅子王は紙カップを二つ用意し守人に手渡してくれた。湯気の立つそれを慎重に受け取る。何度か息を吹きかけ口を付けるがあまりの熱さに口を離してしまった。

「熱いのは苦手か?」

「なぜ紙なんだ?」

 獅子王は再び同じ椅子に座りカップの上の部分を器用に持ち飲んでいる。

「洗う手間がない」

「合理的だな」

 科学者らしいといえばらしい答えだ。守人は息を吹き少しだけ口に入れた。

「なあ」

「ん?」

 熱いものが喉の奥へ消えていく。その余韻に浸りながら守人は聞いてみた。獅子王はコーヒーをちびちび飲んでいる。

「宋作は、どうしてここにいるんだ」

 口が止まり、目だけが守人を見た。

「あんたと接してきて四年近くになるが、思っていたことがある」

「そうなんだ、実は最近しわが増えてな」

「そうじゃない」

 守人は会話に一拍の間を置きたくてコーヒーを小さく飲み込む。ゆっくりとした時間が流れ、守人は黒い水面に目を下ろしながら言った。

「誤解を恐れずに言うと、あんたはここに相応しくない。そう思うんだ」

「ふ、君に言われるとはな」

 その言葉につい獅子王の相好が崩れた。下手な冗談だと笑っている。

「私から言わせればね、君と麗華嬢の方がよほど不似合だよ」

「かもな」

 そう言われ守人も苦笑した。自分も姉もまだ二十代の若者だ。こんな普通とはかけ離れた生活は不似合いだ。それは否定できない。

「だが、俺たちには事情がある。宋作は、なぜここにいるんだ?」

 守人は特異戦力対策室が作っていた次世代兵器を使ってしまった。麗華はそんな彼を管理するためにここにいる。不釣り合いだとしても理由はある。

 では、獅子王の理由とはなんなのだろうか。四年ほどのつき合いになるが守人は知らない。

 どうも聞いてはいけないような気がしたのだ。こんな場所だ、後ろ暗いものを持つ人なんてごろごろいる。だからか守人も安易に聞いてはいけないと思っていた。

 現に、守人の質問に獅子王は答えなかった。

「悪い。突っ込み過ぎたかな」

「いや、そうじゃない。いいんだ」

 が、喋らなかったのは話したくないのではなくどう話そうか迷っていたからだった。

「ただ、どこから話そうかとね」

 獅子王は天井を見上げる。きっと自分の過去を振り返っているんだろう。目はどこか遠い場所を見ていた。

「世界というのは不思議なものだ。矛盾こそ真理。私の役職で言いたくはないがそう思う時がふとある」

 彼の話を守人は静かに聞いた。一端コーヒーを飲む手を止め彼を見つめる。

「君は、異能というものをどう思う?」

「どう、とは?」

「普通、異能力と聞けばそれはスーパーパワーだ。超人的な力。どれだけ強いか。そこに注目しがちになる。でもだ、人が幸せになるのにそこまでの力がいるか?」

 獅子王は平然と話すがそこには彼の信念を感じる。

 異能、いわゆる超能力やスーパーパワーとなればその強さに注目してしまうのは致し方のないことだ。そこには人が持つ憧れのようなものがある。

 空を飛ぶ。車を持ち上げる。大なり小なり人は特別に憧れる。異能はそれを叶えてくれる端的な手段だ。となればどれだけ特別になれるか、転じてどんなに強いのかを気にしてしまう。

 だが、獅子王は別の観点で見ていた。

「個人の強さだけが全てじゃない。特別である必要すらない。小さな力でもすべての人が使えるようになればどうだろうか。少しでも腕力を上げられる異能だとしても介護や建設の分野では重宝されるし、高速で治る再生能力ではなくとも、現代の医療では治せない病でも異能なら治せるかもしれない。異能は戦闘の道具だけじゃない。様々な可能性を秘めているんだ」

 いつしか獅子王の口調には熱が帯び表情は真剣なものへと変わっていた。

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