SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

同情

「君の診断をしている最中で悪かったが、さきほどエフェクトの方の診断結果も届いた。聞くか?」

 そう言われれば聞かないわけにはいかない。守人は無言のまま診断結果を待った。

「エフェクトスーツの溶解した場所の細胞を分析に掛けてみた。すると化学式が初期のものと変わっていてね、おそらくオールド・マンの溶解液に対抗するため形を変えたんだろう。以前より結びつきが強固になっている」

 エフェクトスーツの持つ自己進化だ。相手や状況に合わせ適応していく。SCPの激闘の中でもそれは機能し見事守人を勝利に導いた。守人が勝てたのはこれのおかげだと言ってもいい。

「しかしだ」

 エフェクトスーツは勝利に貢献した。それは転じて獅子王の手柄でもあるはずなのだが本人は険しいままだ。

 その理由である分析結果を獅子王は口にした。

「一部においてその化学式が崩れているものがあった」

「崩れ?」

 化学式が崩れているということは変化が起きているということだ。そしてその原因は一つしかない。

「オールド・マンの溶解液だ」

 獅子王は手元にあったタブレットに画像を表示し守人に手渡してきた。見てみるとそこにはいたるところに溶解が認められるエフェクトスーツが映っていた。

「新しい欠損箇所の細胞ではこれが顕著でね。変容が起こっている。耐性をつけたエフェクトを、さらに溶かし始めていたということだ」

 守人は顔を上げ獅子王を見た。その後再び画像に目を下ろす。確かに。耐性を付けたはずのスーツなのに、それにしては破損が激しい。

 守人は目を細めた。どうしてここまで獅子王が真剣なのか、それで分かった。

「分かるか。君はもうすぐで、死んでいたんだ」

 死んでいたからだ。もしあのままオールド・マンのそばにいたら。スーツは波に飲まれた砂の城のように溶け出し守人すらも蒸発させていただろう。

 戦いの中、エフェクトは進化していた。相手の溶解液に耐性を身につけ対抗していった。

 だが、進化していたのはエフェクトだけではない。

 オールド・マンも同じだったのだ。すべてを溶かす。それを体現するために彼もまた守人との戦いの中で溶解液を変化させていた。そしてそれはあともう少しだった。両者の戦いが長引き時間があれば、オールド・マンが作り出した新たな溶解液はエフェクトを凌駕していた。

 オールド・マンの牙は守人の命に届いていた。

 彼はオブジェクトクラスケテルの怪物。SCP財団が人類の脅威と認めた正真正銘の化け物だ。

 彼との戦いは勝利に終わったが、それは紙一重の勝利だった。

「なぜあんな真似をした。リスクしかない愚かな行為だ。自分を危険に晒している。エフェクトスーツのせいで油断したか? それとも死にたいのか?」

 声こそ荒くないものの真剣な叱責だった。それを守人は甘んじて受けている。言い訳はしない。すべて獅子王の言うとおりだ。

「私が心配しているのはな、君には相手の意識や感情とリンクする精神感応能力がある。相手に同情でもしたか? オールド・マンの意識と同調したのではないかと、それを危惧している」

 獅子王の心配は尤もなものだ。

 守人が持つ精神感応能力は相手の考えや感情を読み取ることに役に立つが、もし同調し過ぎると乗っ取られる危険性がある。相手に同情し、もしくは怒りが感染し、はたまた思想に染められるかもしれない。そうなれば敵に寝返ることもあるのだ。

 だからこそ、獅子王は相手の干渉を疑っていた。

「宋作。それは違う」

 その疑念に、守人は気丈に答えた。

「やつと戦っている時、やつも俺も全力だった。すべての力と感情をさらけ出していた。余裕のない必死の状態。そうなるとな、分かるんだよ。相手の機微というか、小さな変化でも。なにかが変わったなって」

 守人は思い出すように落ち着きながら話していく。

「途中で、やつの雰囲気が変わったのが分かった。露骨に笑ったりもしてたがな、それでもどこかで笑っていない部分を感じたんだ。だから分かったんだ。こいつにもどこか心の弱さみたいなものがあるのだと」

「オールド・マンに?」

「それに、少しだけ寄り添いたくなった。それだけだ」

 オールド・マンは敵だった。自分だけじゃない、人類の敵だ。それは分かってる。だけど命の削り合いをしていく中で相手に自分の写し身を見たのかもしれない。

 力だけがある孤独な存在。

 そんな相手に、どこか共感してしまったのかもしれない。

 守人は獅子王を見た。

「だが、軽率だった。戦いであることを軽視した。危険に晒したという意見はまったくもってその通りだ。すまない。反省している」

 守人からの謝罪は真っ直ぐで誠実だった。

 獅子王は息を吐いた。

「……ならいいんだ」

 そう言われてなお繰り返し責めようとは思わない。それでも最後に一つ付け加えた。

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