SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

名も無き兵士 4

 だが、そこで声が響いたのだ。

 スピーカー越しだった。それは最初の男の声であり、死にかけであり今まさに殺されかけている私に聞いてきた。

「復讐したいか?」

 意識が激痛で飽和している。それ以外考えられない。感じられない。

 でも、その問いだけは脳に届いた。

「やつらを倒したいか?」

 ダンスミュージックが騒がしいホームパーティでも自分の名前だけははっきりと聞こえてくるように、男の声だけは私の意識に入り込んでくる。

「亡くなった仲間を思い出せ。それだけを考えろ」

 男の言葉が私の意識を呼び覚ます。

 死にかけていた意識が、奮い上がった。

 復讐。復讐。その言葉が呪いのように私の心身を蝕み再生させていく。

「この痛みを耐えた時、お前は人から兵器になる」

 兵器?

「やつらを殺す兵器だ。誰もお前に勝てない。殺戮だ、アラブのゴミ共を根絶やしにしろ」

 男の一語一句を聞く度、私の胸にある炎が揺れるのが分かった。

「生まれ変われ。願いを叶えろ」

 消え入りそうな意識の中で、私はかすかに感じる復讐の熱とやつらの処置を感じていた。

 背中に穴を開けられたあと、針と呼ぶには大きな筒を差し込まれなにかを入れられた。そのなにかは私の体内に入るとなにかを起こした。

 その変化に耐えられない私の体を奮い起こすためあらゆる薬物が投与された。一つはモルヒネだと分かったがあとは分からなかった。

 私は時間すら吹き飛ぶ体験をしている。時間は相対的だとアインシュタインは言ったそうだが、今なら分かる気がする。

 時間とは情報だ。長い時間ほど情報量が多い。情報量が多ければそれだけ時間が長く感じる。

 私は今、脳が焼き切れそうなほどの痛みという情報を感じている。この濃密な時間は私を絶望させ、心を砕き、絶命させるに十分なものだった。

 それでもなお、私は生きている。

 絶望してもなお、心が砕かれてなお。

 希望なんていらない。心もいらない。

 命すら、惜しくはない。

 私はただ。

 ただ。

 ただ。

 この痛みの先に、この時間の果てに、やつらへの復讐を叶えたい。

 私は人間すら止めてもいい。

 やつらへの復讐を遂げるためだ。仲間の無念を晴らすためだ。

 そのためならば。

 私は人から、兵器になる。



 心電図に映る波形は正常な値を示していた。規則正しく鼓動は波を打ち、ほかにも額に張られたパットから伝えられる脳波にも異常は見られない。ほかの計測器もみなすべて正常と口をそろえている。

 それを見てようやく獅子王は安堵のため息をついた。

「守人君、もう大丈夫だ。外してくれ」

 診断用のベッドに横になっていた守人は上体を起こした。自分のいたるところに張ってあるパットを外していく。

「体調は良好。異常はどこにも見られない」

「それはなによりだ」

 守人は上半身が裸でありそばにあったシャツに着替えた。獅子王からの報告に平静と答える。自分の体のことは自分が一番分かっている。結果に驚きはない。

「守人君」

 だが、獅子王の顔は険しかった。

「なぜあんな無理をした」

 彼には珍しく声は固いものだった。

 獅子王は守人から少し離れた机の椅子に座っている。椅子の正面が守人に向くように動かし座り直す。

「…………」

 その質問に、守人はなかなか答えられなかった。

 そんな守人の様子に獅子王は小さくため息を吐くと視線をやや逸らした。

「せっかくのエフェクトスーツもボロボロだ」

「そうだな。悪かった。すまないと思っているよ」

「それはスーツにだけか?」

 鋭い。声だけでなく守人を見る目つきも含め獅子王の姿勢は針のようだった。

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