SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

名も無き兵士 3

 すぐに立ち去ることはしない。それはここにいた者を悼んでいるのか。彼の立ち姿には哀愁が漂っていた。

 だがそんなものは無意味だ。それに相手は敵だった。感じ入る必要などどこにもないというのに。

『ほんと、馬鹿なんだから。帰ってきたらお説教だからね』

「覚悟しておくよ」

 要らぬ危険を冒したのは事実だ。それは責められるべきだろう。甘んじて受け入れる覚悟だった。

『ファースト。獅子王だ。エフェクトスーツの調子を見たい。戻り次第すぐ私のところへ来てくれ。そのまま君の体調も見る』

「了解だ」

 守人は答えるがそこで電気がバチっとなる音が聞こえた。見れば全身に溶けた跡があり断線した場所から火花が時折発生していた。それも一つや二つじゃない。

 これは姉さんだけからじゃなく獅子王からも言われるな、と予想を下方修正する。

 守人は近づいてきたヘリに飛び乗った。開いたハッチから中へ入り藤森と再会する。

「よくやったな」

「まあな」

 守人は壁際の座席に座り込んだ。ぼろぼろになったスーツは痛々しいが当の本人はいつもの調子だ。

 そんな守人に小さく笑い藤森はパイロットに急ぎ基地へ戻るよう声を張り上げた。

 今日も、生きて戻れる。



 あれから、私は奇跡的に一命を取り留めた。駆けつけてきてくれた味方の増援に助けられたのだ。

 だが、長くはない命だった。

 右腕は失われ、両足もなくなった。私は組み立てる前のプラモデルのようにいろいろなものが足りていなかった。

 そんな私が運び込まれたのはどこだったのか。そこは暗い部屋の中であり、担架の上で目を覚ますなり一人の男が私に聞いてきた。

「生きたいか?」

 逆光がまぶしくて見上げる顔は見えない。声からして五十代ほどの男性だ。状況が分からない。この時点では私は味方の施設にいるのか、敵に捕まっているのかも分からなかった。

「やつらに復讐したいか?」

 しかし、その質問に私は頷いた。

 反射だと言ってもいい。考えるよりも早くに、私はそれを心の底から望んでいた。

 復讐したい。それが遺言でいい。私は復讐がしたい。心はそれ一色に染まっていた。

 すると男は一枚の紙とペンを持ってきた。無愛想な態度でそれを突きつけてくる。

「ならこの書面にサインをしろ」

 イヤなやつだ。階級は上なのだろうが私がサウスポーなのは見て分かるだろうに。

 私は慣れない左手でペンを持ちサインを書いた。これで大丈夫なのか不安になる字だったが審査は通った。私が書いたものならあんな落書きでもいいんだろう。

 サインを受け取るなり男は立ち去っていき、それと入れ違いに数人が部屋に入ってきた。それらが私を囲い込むように立ち並んでいく。

「では、今から処置を開始します」

 処置? 手術のことか? ここは手術室なのか? それでこいつらが医者なのか?

 いろいろな思考が駆けめぐった。状況を整理する。

 が、ただでさえ漏電している私の回路に騒音が邪魔をしてきた。

 ドリルの音だ。歯医者で聞いたことがある音と酷似している。

 ドリル? なにを削る気だ? 

 すると私は担架の上で横向きに寝かされた。そして背中に誰かの手が当てられる。

 待て。手が当てられるというのは二重の意味でやばい。まず触覚が生きているということは麻酔が利いていない。なによりまずいのはこれからここにドリルを当てようとしていることだ。

「待て。まだ麻酔が利いていない」

 私は喋るのも億劫になる口を動かしなんとか訴えた。

「これは麻酔を使うと効き目が弱まる」

 ワッツ?

「エクスキューズミー?」

 言葉を疑った。同時に確信した。

 こいつは医者じゃない。マッドサイエンティストとかいう凶人だ。

 最悪だ。私は四肢のほとんどを吹き飛ばされた挙げ句、頭が沸騰した人でなしに囲まれているのか。

 どうしようもなかった。ドリルの音が部屋に反響する。逃れられない恐怖というのを味わった。一秒がとても長く感じる。

 そして、ついにドリルの先端が背中に当てられた。

 部屋に充満する音が、私の声に変わった。痛い。なんてものじゃない。神経を抉る痛みだ。私は痛みでこのまま死ぬかと思った。

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