SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

持久戦

 この勇敢な青年は、自分と長期戦をしようというのだ。

 全身を溶解液で覆った体には打撃を与えても自身までダメージを受けてしまう。それはもう仕方がないと割り切り、ならば回復するまで攻撃をかわし、完治すれば攻撃、また完治するまで回避。このやり取りを繰り返そうというのだ。

 まったく以て無謀な戦いだ。これを成功させるには相手の攻撃をかわし続けなければならない。また完治するまでは攻撃することができない。至難という言葉ですら表せない。

 だが、事実それしか自分を倒す手段はない。だとしてもそれを選択できる者がどれだけいるだろう。あまりにも不利だ。分の悪い戦いに賭けるくらいなら普通は逃走に希望を見出すもの。

 しかし、この青年は戦うことを選んだのだ。

「ひひ」

 オールド・マンは、心の底から感心していた。

 今まで自分が遭遇してきたどの人間も、どの青年も、どの少年も、自分と相対すれば誰もが逃げ出した。自分がどれだけ求めても、求めても、求めても。誰も最後まで相手になろうという者などいなかった。

 だが、彼は違う。

 彼はつき合うつもりだ。どのような不利、無謀な戦いだと知っていても、逃げることなく立ち向かってくる。

 オールド・マンの口元がにやりと笑った。

 このようなことがあるか。こんなにも素晴らしいことが。きっとこれからさき、このようなことは二度とない。

 オールド・マンの中で今までにないほどの愉悦と欲望が渦巻いていた。

 欲しい。この二度とない幸福の、その先に待つ悲鳴を聞いてみたい。その絶望を見てみたい。それを聞いた時、自分は一体どれほどの至福を得るのだろう。

 欲しい。絶対に。

「あああああ!」

 絶叫を上げたのは、オールド・マンの方だった。恍惚に瞳を輝かせ守人に体を伸ばす。

 その攻撃を、守人はかわした。

 両者の攻防が再開した。戦況はシンプルだ。オールド・マンはひたすら攻め、守人はすべてを回避する。そして機会が整い次第反撃する。それが出来なければ死ぬだけだ。

 オールド・マンの猛攻が襲いかかる。。そのすべてをかいくぐるのは困難だが勝利の扉はその先にしかない。

 防御はしない。すべてかわしてみせる。

 求める。求める。

 かわす。かわす。

 守人が後退のステップを刻みそれをオールド・マンが殴りながら追いかける。これは持久戦だがじっとしていれば相手に回復の時間を与えてしまう。オールド・マンからすれば短期戦に持ち込まなければならない。だからこそ攻め手は緩めない。

 必殺はこの際いらない。けれどせめて一撃。オールド・マンは大振りの攻撃を止め拳を小出しにしていった。いわゆるジャブだ。

 その攻撃を、守人は訓練によって身につけた動きと念動力の加速を以て回避する。間合いを放し安全圏を意識して立ち回る。

 そして拳が完治すると、相手の攻撃に合わせクロスカウンターを打ち込んだ。

「ぐぅ!」

 頬にめり込む守人の拳にオールド・マンの顔が傾いた。

「ぬう!」

 しかし戦意までは折れていない。

 状況はこちらが有利。それは疑いの余地もない。

 このままで、終われるか!

 オールド・マンは攻めた。どの道それしかない。この二度とない獲物を取るためには攻撃し続けるしか。

 攻める。攻める。

 だがその途中、またしても守人の攻撃が飛んできた。強烈なボディブローがたたき込まれる。

「!?」

 集中が乱れていたわけではない。油断もしていない。しかし殴られた。

 解せない。まだ回復まで時間はかかるはずだった。

 ペースが、上がっている?

 オールド・マンは反撃に応じ守人は後退する。相変わらずのヒットアンドアウェイだ。しかしその攻撃頻度が変わっている。

 十回攻撃すれば一撃が返ってくるペースだったのが七回に減っている。偶然か?

 いや。

 偶然ではない。確実に、修復のペースが上がっている。

 それはエフェクトスーツの状況をリアルタイムで見ている獅子王や麗華も知るところだった。

 エフェクトスーツがオールド・マンの溶解液に耐性を付けはじめている。

 人は同じ風邪を引かないと言われる。それはその風邪に耐性を持つからだ。

 エフェクトスーツも半有機素材なため生物のように耐性を持つ。何度もオールド・マンに触れることによって修復に慣れ、また溶解液に対し頑丈になっていったのだ。

 オールド・マンが攻撃する。しかしそれは守人には当たらず、代わりに守人の拳が鳩尾を正確に突いてきた。

 まださきほどの攻撃から三回分しか攻めていない。間違いない。この敵はこの戦闘の最中で成長している。

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