SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

戦闘

 守人は、走った。

『ファースト!?』

 戦うしかないのなら、正面から叩くしかない。

 守人は大地を蹴りオールド・マンの顔面を殴りつけた。拳をまともに受けたオールド・マンは吹き飛び地面を何度も跳ねていく。細身の体が何回も回転していく。

 手応えはあった。だが直後右手に走る激痛に守人は顔をしかめた。右手のスーツ部分が完全に溶け肌が露出している。その肌も負傷していた。

 攻撃すればするほど自分もまたダメージを受けていく。

 オールド・マンが立ち上がり始めた。口からはくぐもった笑い声を出しながら、愉快そうに体を起こす。

「いいよ、実にいい。普段若い子と触れ合う機会なんてないのでね、生身じゃないのが残念だが、歓迎するよ。ふっふっふ」

 そう言うと今度はオールド・マンから襲いかかってきた。やせ細った体からは想像もできない跳躍を見せ守人に殴りかかってきた。

 さきほどのお返しかヘルメットを狙ってくる。

 守人は急いで回避した。殴り方は素人だ、力任せに殴りつけているだけで隙が大きい。

 守人は隙のできたわき腹に左手で殴りつけた。カウンターが決まった形だが余裕はない。

「く!」

 殴りつけた左手の装甲が溶けだしている。エフェクトスーツというリソースを解かしながら戦うしかないがこのままではペースが間に合わない。

 それでも。

「うおおお!」

 守人は攻めた。拳が封じられたなら肘を、蹴りを、膝を使ってオールド・マンを殴り続ける。守人からの連撃にオールド・マンの体はふらつき、その隙に守人は相手の顔を掴むとありったけの力を込め頭突きをした。

「ぐあ!」

 オールド・マンから初めて声が漏れた。地面に倒れ額に手を当てている。

 見れば、紫色の血が流れていた。血液は溶解液と混ざると蒸発し、傷口は焼かれたようにして塞がっていた。

 しかし頭部を損傷したのは守人も同じだった。胴体分と同じく装甲を厚くしているヘルメットだがそれが溶けだし顔の一部が外に出ていた。

『ファースト、それはダメよ!』

 もし下手をしていれば今ので自分が死んでいたかもしれない。それほど守人も必死だった。

 オールド・マンの能力は強力で慎重にならざるを得ない。だが臆してはならないと直感していたのだ。

 逃げていてはこのSCPは倒せない。

 守人は一歩を踏み出した。そして構える。この強敵を、倒すために。

「…………」

 守人の全身が真剣な闘志に包まれる。全神経をこの一瞬にそそぎ込む。

 オールド・マンが駆け寄り腕を伸ばしてきた。守人のヘルメットを掴もうとしている。

 それを守人は体裁きによって横へずれかわした。オールド・マンの次の攻撃も後ろに下がって避ける。

 そこでオールド・マンの表情が変わった。

 守人から、攻める気配がない。集中はしているが攻撃はしてこない。

 逃げているだけか。そうと分かりオールド・マンの攻撃も大胆になっていく。大振りに腕を回し蹴りにも躊躇がない。

 守人は相手の打撃を右に避け、次の攻撃を左にかわした。その次、オールド・マンが放った上段蹴りを背中を反ってかわした。

「ふ」

 オールド・マンから確信した声がもれる。その体勢では動けない。

 オールド・マンは守人の上体を狙い腕を伸ばした。背中を反った状態からでは動けない。かわそうとすれば上体を元に戻してからではその間に手は届く。

 しかしそうはならなかった。

 守人はそのままの状態で後退したのだ。足は動いていない。オールド・マンの目が見開かれた。

 守人は念動力を自身に使い後ろに引っ張ったのだ。空を飛ぶのと同じ要領だ。相手に異能が利かないとしても自分には有効。

 守人は大地に足跡を引きずりながら体勢を戻した。離れた場所に立つオールド・マンを見る。

 オールド・マンは悔しそうに口元をゆがめ走ってきた。またしても大振りの拳がとんでくる。

 それを守人はかわす。ならばもう一度とオールド・マンが振りかぶった時だった。

 オールド・マンの顔を、守人の拳が捉えたのだ。

「!?」

 顔面から伝わる衝撃を感じながらオールド・マンの思考が走る。油断していた。まずはそれを反省する。次にどういうことかを考える。守人は今かわすと同時、攻撃してできた隙を突いてきたのだ。

 それで理解する。そうか、回復していたのか。守人の拳のエフェクトスーツはその修復を終え反撃に出たのだ。

 すべて理解しオールド・マンは小さく笑った。そして傾いた体を支えるため片足を後ろに下げる。

 この勝負、敵の、守人の狙いが分かった。

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