SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

接触

 仲間がやられたことで集まっていた兵士たちが一斉にオールド・マンに銃撃を浴びせた。この怪物を止めることなんてできない。

 それで攻撃を加えるのだが、銃弾は当たった瞬間に蒸発し傷ひとつ与えられない。

「そんな!?」

 これではこのSCPを運ぶどころかどう倒せばいいというのか。

 どうしようもない。この災厄は倒せない。だからこその人類の敵なのだ。

 オールド・マンは辺りを見渡した。自分に発砲してくる敵を興味なさそうに見たあと顔を正面に戻した。

 溶解液を飛ばすつもりか。両側から撃つ兵士たちも警戒する。

 しかしオールド・マンにさきほどのような動きはない。ただなにもせず立っているだけだ。

 どういうつもりなのか。そこで兵士の一人が気づいた。

「足だ!」

 オールド・マンは裸足で立っている。その足場が溶けだしていた。

「伏せろ!」

 男が叫ぶ。

 瞬間だった。オールド・マンの足は足場を貫通し地面に着いた。両足はバンカーのように地面に突き立てられ列車により引きずられていく。地面をえぐり列車が激しく揺れ、ついに完全に停止、後続の車両は脱線しさらに前方の車両に追突してくる。

 列車に乗っていたイスラム国の兵士は全員振り落とされたから列車の下敷きにされた。

 走っていた列車は大事故のそれだった。車両は横転しコンテナは散乱している。

 その一つから、退かすでもなく持ち上げるでもなく、コンテナを溶かしながらオールド・マンが現れた。これほどの大事をしておきながらその体は無傷であり平気で歩く姿から足の負傷もない。

 守人とオールド・マンの距離は五百メートルほど離れている。なにもない砂漠とはいえ陽炎が立ち上るこの場所では相手を発見するのは難しい。

 が、

「ふんふん」

 オールド・マンは鼻を動かし、目当てのものを見つけたのか再び口元が持ち上がった。

 オールド・マンは守人の方へ跳躍していった。一回で百メートルほどを跳び五歩だけで守人の目の前へ着地していた。

「見つけた」

 にやりと、守人を見て笑った。

『こいつ……』

 麗華から嫌悪感に塗れた声が漏れる。このSCPは楽しんでいる。それも相当趣味が悪い。

 それは守人も感じている。この敵は虐げることに喜びを感じるタイプだ。それが生き甲斐になるほどの変態。

 加えて、強敵だ。

(これが)

 対峙して守人は実感していた。

 これがケテルクラス。SCP財団が収容不可能、そして世界終焉すら引き起こすとした超危険生物。

「変わった着ぐるみだなぁ」

 ヘルメットの中で守人は目を細めた。緊張が走る。対してオールド・マンはリラックスしていた。

「顔が見えん。それは残念だが、声は出せるのか? くぐもった声でなく、君の声が聞きたいなぁ」

 両手は下げ幽鬼のような立ち姿で話しかけてくる。隙だらけではあるがそこには自信がある。負ける気がない。

 ケテルクラスのSCPとの戦闘は避けたかったがこうなった以上仕方がない。

 戦うしかない。守人は覚悟を決めた。

「年を取って話し相手が欲しくなったのか?」

「ほう」

 守人の返事にオールド・マンから感心したような声が出た。

「ちゃんとしゃべれるじゃないか。中には恐怖でしゃべれない子もいるんだが、君はいい子だね」

 資料にはこの男を捉えるには少年の悲鳴でおびき寄せるとある。いったいこれまで何人を殺めてきたのか。 

「一つ聞きたいことがある」

 オールド・マンが小首を傾げる。守人は聞いた。

「人に危害を加えず、静かに暮らす気はあるか?」

「んー」

 守人からの問いにオールド・マンは目を泳がした。片手で首を揉み、視点が守人をとらえる。

「君は豚から同じ質問をされてなんて答えるんだい?」

「よく分かった」

 守人は両手を開閉する。さきほど溶けた手のひらはすでに修復されている。首も、足も。これなら問題なく戦える。

「戦うつもりかい? 君は勇気があるなぁ、いいよいいよ」

 守人は戦意をにじませるがそれでもオールド・マンの余裕は崩れない。

「その分、恐怖を見せる君が見たくなる。ふっふっふっ」

『ファースト』

 麗華から心配する声で呼ばれた。はじめてのケテルクラスとの戦闘、緊張が走る。

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