SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

スニーキング

「ああ」

 守人は短く答えると扉を開き飛行中のヘリから降りていった。守人が降りたのを見てヘリは旋回していく。

 守人の辺りにはなにもない。一面砂の大海だ。視界の先は陽炎によりぼやけている。

 しかしその不明瞭な大地の先に鉄道の路線が敷いてあった。

『あれがオールド・マンを乗せた列車が走る線路よ。すぐに動ける位置まで近づいて。あとは見つからないよう待機よ』

「了解」 

 守人は鉄道まで百メートルほどの位置で体を伏せた。鉄板のように熱い地面と暑い空気に晒されるが今は我慢するしかない。

『目標接近、接触まで百八十秒』

 残り三分。作戦決行までの時間が近づいている。

『分かってると思うけど、接触するのは鉄道が過ぎ去ってから。後ろの車両に飛び乗るのよ。君なら出来るはずだわ』

「分かってる」

 それだけを確認してから通信は一端なくなった。互いに黙り込みその時がくるのをじっと待つ。

 敵はケテルクラス。油断するどころか全力で戦っても勝てるかどうか。不安と危機感、それをわずかに上回る戦意が守人の心の中で天秤のように揺れている。

 果たして成功するのか。失敗するのか。失敗とはすなわち死だ。もしかしたら今日、自分はここで死ぬのかも知れない。

 いや、そんなことをする前から考えても無益だ。そんなことよりも自分のやるべきこととその手順を頭の中で描き整理していく。

 やれる。成功させる。自身に言い聞かせた。

『来たわ!』

 守人は顔を上げた。鉄道の先から列車が来るのが見える。

 あれに、オールド・マンが乗っているのか。

 守人は伏せていた体を起こし片膝を立てる姿勢で待つ。視界の端から列車が走ってくる。

『今よ!』

 守人は走った。地面を蹴り宙たかく上がると飛行し突撃していく。すぐさに列車に近づき最後尾の列車に飛び乗ることに成功する。

 動き出してから数秒の出来事。オールド・マンが動き出した気配はない。ちょうどコンテナにより影になっており身を潜める。

『敵に動きはないわ。周回している敵に気をつけながら対象に近づいて。対象は中央のコンテナ、白いケースに入っているわ』

 守人はコンテナに背中をつけそっと顔だけを出してみる。列車は長くいくつもの車両、その上にコンテナが積まれ、警備の兵が巡回している。服装はアラブの普段着。イラク人だ。イスラム国の残党が運用しているのか。

 すると角からこの車両を警備している男が見えた。守人は急いで顔を引っ込める。足音がこちらに近づいてきた。

 守人は静かに跳躍しコンテナの天井に飛び移った。姿勢を低くし男が通り過ぎ去るのを待つ。列車の動きで小さく体が揺れる。

『まだよ』

 衛生から見ているのだろう。麗華から指示が入りそのまま待機する。足音が近づいてきた。通り過ぎるのをじっと待つ。気づかれないだろうか。守人は警戒するが、足音は離れていった。

「…………」

 なんとかばれずに済んだようだ。守人は同じ場所に下り男の背後に立つ。

『今よ。静かにね』

 男にそっと近づき、片手で口を押さえる。そのまま両手で顔をひねった。

「んんん!…………」

 一瞬で首を折り静かに床に寝かせる。その後再び顔を出し向かいの車両を見た。

『向かいには二人いるわね。オールド・マンのコンテナは三つ目よ』

「すぐにごちそうとはいかないか」

『まだこちらには気づいていない。慎重にね』

「了解」

 敵兵は二人体勢でコンテナを周回している。二人の視線がこちらを離れたタイミングを見計らい移らなければ。

 一人がコンテナの裏側に入る。残りも背中を向け回っていった。

 守人はその隙に向かいの車両に飛び移る。数歩先には後ろ姿の敵がいる。やり過ごすこともできるかもしれないが、いつ振り返るか分からない。

「ここでしとめる」

 麗華に伝え守人はそっと男に近づく。男はAKを構えているため両手は下がっており口をふさぐのは容易い。

「ンンン!」

 守人はさきほどと同じように口を押さえつつ首をへし折った。遺体を静かに置く。

『ファースト、次が来るわよ』

 麗華に言われ守人は振り返る。まだ来ていないがこの遺体はどうしようもない。

 隠れても意味がない。守人は来た道を戻り角で待ち伏せする。男が来るのを静かに待つ。

「…………!?」

 男が来た。守人はすぐに片手を伸ばし口を塞ぐと同時に構えている銃を抑える。男はいきなりのことになにも出来ず、守人は頭突きをして気絶させた。

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