SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

ケテルクラス

 牧野からの言葉に短く答える。守人は地図を見た。残る印はあと三つ。

「どれを選ぶかはあなたの自由です。条件や相手を考え決めてください。しかし、昨夜と状況が変わったSCPがいます」

「どれだ」

「これです」

 牧野はそれを指さすと状況を簡単に説明した。

「でもそれは。ケテルクラスよ?」

 指定されたSCPに麗華が不安そうな声を出す。

「ケテルクラス?」

 守人は振り返る。ケテルクラス。その名称は聞いたことがある。

「財団が収容不可能と判断した超危険物よ。人類を滅ぼすほどの力がある」

 麗華の顔は真剣さと緊張に染まっていた。

「どうしますか?」

 牧野が聞いてくる。守人は腕を組んだ。次の対戦相手がどれになるのか職員たちからの視線も彼に集中する。

 守人はしばし考えたあと、組んだ腕を解いた。

 覚悟を決めた。

「それにしよう」 

 次のSCPが決まった。



『作戦内容を確認します。今回の討伐対象SCP、オールド・マンは、人型のSCPで老人のような男性の姿をしています。その体からは強烈な溶解液を絶えず分泌しており、あらゆるものを溶かしていくわ。現在までに様々な試みをされたけれど彼を閉じこめる方法ははすべて失敗に終わっているの。

 彼を捉える唯一の方法は、彼が若い男性の悲鳴を好むことから檻の中で男性を痛めつけ、おびき寄せたあと溶解液を一時的に中和する液体を入れ閉じこめることだけよ。人道的な方法とは言えないわね。それにこの方法でも彼を抑えられるのは最大でも三ヶ月が限度なの。

 彼の最大の特徴である溶解液は立っているだけで地球に穴が開くとされるほど強烈なもので、攻撃、防御両面においても役立っているわ。全身を覆っているため隙がなく、その即効性は命中した銃弾が消滅するほどよ。

 その特性上彼を捉え続けることは困難であり、彼のオブジェクトクラスは危険度最上位のケテルにされてるわ。あのフェルナンドを越える危険度よ。ケテルクラスに指定されるSCPはどれも収容方法が確立しておらず放置しておけば人類が滅亡するほどの危険度を持つものばかりよ。このSCPも人類の脅威であることは間違いない。君といえど正面から戦うのは危険よ。

 よって、今回は奇襲作戦が採用されたわ。オールド・マンはラッカにて存在を確認されていたけれど現在デリソール移送の準備がされているわ。そこで彼は液体入りのコンテナに入れられ鉄道を用いていて運ばれるわ。

 私たちは移動中の鉄道を急襲しコンテナを奪取するの。

 作戦は以上よ。今回はいつも以上に迅速な行動が求められるわ。彼が解放される前にケリをつけて。

 無事の帰還を。戻ってきてね』



 守人を乗せたヘリは快晴の空を飛んでいた。窓の外には広大な広野が広がっている。なにもない一面砂の大地だ。

『ヘリでは近くまで行けないわ。相手に気づかれて対象を解放されたくないからね。ヘリが着陸したらあとは守人君一人で鉄道付近まで接近、対象を待ち伏してもらうわ』

「了解」

『作戦通りにいけばいいけれど……』

「……あらゆる状況を想定しておくさ」

 二人の会話にはいつにも増して緊張感が漂っている。それもそのはずで今回の敵は今までとは危険度のランクが違う。

 ケテルクラス。この名を冠する者たちの存在感はある意味で核兵器と同じくらいの重さを持つ。

 なにせ放置しておけば人類が滅亡しかねない者たちなのだ。それだけ強力なSCPだということに他ならない。

 逆に、もし拘束することができればその意義は大きい。人類の敵を一つ減らせるのだ。

 守人は自身の肩に大きなプレッシャーを感じていた。

「これ以上は近づけない。降下してくれ」

「守人、目標ポイントだ」

 パイロットと同乗していた藤森両名にうなずき守人は立ち上がった。

 そこへ藤森が声をかける。

「気をつけろよ」

 これから最大の敵に彼は挑む。その守人の背中へ藤森なりの励ましを送った。

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