SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

心配

 イラクの訓練施設。そこに守人は戻ってきていた。訓練施設の正面の駐車場に足を着ける。辺りにはなにもない場所なだけ敷地の外は真っ暗で、建物の窓から漏れる光が守人を照らす。

 小さなスポットライトの下、SCP討伐の英雄は帰還していた。

「守人くーん!」

 そこへ声がかけられた。見れば建物から麗華が走って守人に近寄ってくる。

 麗華は守人の前に立つと心配した表情で見上げた。

「大丈夫?」

 第一声、麗華は守人を案じた言葉をかける。彼を心配して見るがヘルメットをかぶった彼の表情までは読めない。

「ああ、大丈夫さ」

「宗作が検査の準備をしてる。念のためにフィジカルチェックを受けて」

「わかった」

 それだけを言うと守人は歩き始めた。

 守人の声には抑揚がなくまるで機械的だった。回復力もあって怪我をしているようにも見えない。その点に関しては麗華も安心している。

 けれど、その静けさが彼女には不安だった。

 あれだけの戦いをして、あれだけのことがあって、彼の心は静止している。そんなことあるはずがないのに。

 歩き出した守人の背中に手を伸ばす。なにかしなければならない。彼の抱える重みを和らげようと。

 でも、その手を引っ込めた。かける言葉が浮かばない。

 麗華はうつむき、守人は遠ざかっていった。
 


「異常はなしだ」

 医務室にいた守人は獅子王から無事をいわれベッドで横になっていた体を起こした。エフェクトスーツは外している。ベッドの縁に座り靴を履いていく。

「あれだけの戦いをしたというのに。まったく驚異的だよ、君は」

「そうだな」

 靴を履いている守人に獅子王は声をかける。丸椅子をくるっと回し彼に振り向いた。

「君から気になっていることはあるか? 検査上異常がなくても自覚症状は重要だ」

「いや、問題ない。あんたのおかげだよ」

 守人はエフェクトスーツの変化前、灰色の服を脱ぎ始めた。用意されていた服に着替えていく。

「守人君」

 その平然とした振る舞いに獅子王は目つきを険しくした。

「言っておくが、あれは君のせいじゃない」

 それは、守人の核心に触れるものだった。

 守人は着替えを続けていく。白のシャツに腕を通しジーパンを履く。単純な作業に没頭していく。答えを先延ばしにするように。

 しかし着替えなどすぐに終わってしまうもので守人は作業を完了した。

 一端姿勢を整えて、守人は背中を向けたまま声をかけた。

「ありがとな」

 そう言うとドアノブに手を伸ばす。このまま帰る気だ。その後ろ姿に獅子王は言わずにはいられなかった。

「自分を責めることはない。君はよくやった」

 せめてもの慰めだ。意味があるかも分からない言葉だった。もっといい言い方があったのかもしれないがメンタルに関しては門外漢の獅子王にはこれが精一杯だった。

 獅子王の言葉に、守人は振り返ると小さく笑った。そしてドアノブを回し退室していく。

 返事は、最後までなかった。

 守人が医務室から出ると廊下には麗華が待っていた。守人が出てくるなり下に向けていた顔を上げ近づいてくる。

「どうだった? 異常はない?」

「大丈夫。姉さんは心配しすぎなんだよ」

「そんなこと言ったって」

 守人はそう言うが麗華の表情は晴れない。

「心配、するよ……」

 麗華はうつむいた。憂いを浮かべる瞳を自分の足下に向けている。

 彼を前にして立っているのに、頭の中にあるのは数時間前の彼のことだった。

「あんなことがあったんだもの。なのに、守人君なにも言ってくれないじゃない。平気なんて嘘。分かるわよ、それくらい」

 守人は戦った。その内容はあまりにも過酷なものだった。フェルナンドとの戦いでは殺されかけた。ベルトラムと名乗るG4には市民を皆殺しにされた。彼はその中心にいたのだ。

 そのことに、彼がなにも感じないはずがない。

「なんで、言ってくれないの」

 彼は大きな傷を負っている。それを必死に隠している。だから心配なのだ。

 彼は、一人で抱えすぎる。一番大きな傷は誰にも見せてくれない。

 あの時も、この時も。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く