SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

名も無き兵士 2

 でも、戦いは変わらない。戦争は終わらない。撃って、撃って、殺して、殺して。

 そこに喜びはなく、なぜか虚しさだけがついてまわった。銃口は敵の頭を狙っているのに、私はどこに向かっている? 終わりの見えないクソッタレになにを見出せばいい?

 この戦いはいつ終わる? 次の敵は誰だ? 敵は次から次へと出てくる。

 いつしか、私の中から熱が冷めていくのを感じていた。戦場がすべてを奪っていく。感情すらもだ。正義の意義すら失って、それでも私は今日も銃を撃っている。移ろい変わる情勢に揉まれて、私は行き先を失った。

 オバマ大統領は軍縮をめざしイラクから撤退した。民衆はそれを支持し、ノーベル平和賞までもらった。だが、そのせいで今もイラクは混沌のままだ。

 みなは正義を口にするが、そいつと数年つき合ってきて分かってきたことがある。

 正義は浮気性の女みたいなもんだ。おまけに尻軽で誰にでもいい顔をする。男どもは夢中だ、あいつは俺の女だなんて自慢して、奪い合っている。それを見てあの女は笑っているんだ。

 ひどいもんだよ。私もそうだったんだ。あの女に踊らされたんだ。

 私は正義を失った。それに価値を感じなくなったんだ。いつしか敵を殺してもそれを自慢することも喜ぶこともなくなった。

 なんのために戦っている? 私は自分でも気づかないうちに戦場のマリオネットになっていたのかもしれない。

 そんな時だったんだ、部隊でも少々浮いている私に仲間たちと話をする機会が巡ってきたのだ。

 いつものように食事が乗ったトレーを持ち誰もいないテーブルの隅で食事をしていた私に、同じくトレーを持った仲間たちが集まってきたのだ。

 なんでも、助けてもらった礼が言いたいらしい。

 言われて思い出したが仲間の一人が敵に狙われたのを助けたことがあった。そんなの当然で、わざわざ食事の席で、さらに仲間まで連れてくることかとむしろ不審に思ったくらいだった。

 それで礼のついでに話を聞いてみると、どうも私には近寄りづらい空気があるらしく、新入りからは特に話しかけづらかったらしい。私は何人も人を殺した。実績がある。階級も上だ。だが、それ以上に人を寄せ付けない雰囲気が理由のようだ。

 だが、その原因はお前たちにもあるだろうというのが私の言い分だった。もちろん口にはしない。ただ、戦場で家族がどうのこうの話したり、就職目的でくる甘ちゃんとどうして仲良くできる?

 私は皮肉気に、戦場就活生にどこに就きたいのか聞いてみた。

 彼は照れくさそうにしながら教えてくれた。

 彼は、 医療器具を開発している会社を目指していた。その分野では大手だ。特に彼が志望しているのが義手や義足を作っている部門だった。

 彼は言った。自分は力が弱く心も弱い。戦争なんて怖くてたまらない。でも戦争で傷つく人たちを助けたい。自分は戦うことはできないが、せめて傷を負った人たちを助けたいのだと。

 戦場では時に死ぬことよりも生き延びることの方が辛い。体の一部を失い、心に負った傷に耐えきれず自殺してしまう者もいる。

 彼は、そんな人たちを救おうとしていた。彼なりに、戦争と向き合っていたのだ。

 家族の話をしていたとして卑下していた彼は貧乏で、どうしてもまとまった金が必要だった。給料も家族への仕送りに使っているのでまったく遊べないとぼやいていたが、その顔は満足そうに笑っていた。そんな彼を、仲間たちはからかい大声で笑っていた。食堂の中でこのテーブルだけが騒がしいほどの笑い声を上げている。

 そんな中で、私は一人、俯いていたんだ。

 彼らの話を聞いて、私は自分をひどく恥じたのを覚えている。

 なんだ、思っていたよりもいいやつらじゃないか。

 そんな、どこまでも上から目線での反省に作り笑いすらできなかった。

 情勢は変わる。正義も変わる。人の心すら。

 でも、取り戻すことはできる。

 私ははじめて、彼らを仲間として受け入れ、戦うことの意義を見出すことができた。

 戦争は変わらない。終わりも見えない。根本的な問題はなにも解決していない。

 だけど、私は以前までの私ではない。命令だから敵を撃っていた私の指に、確かな鼓動がある。

 心が、熱くなっていくのが分かった。

 私は彼らと戦場へと向かっていった。

 あの日のことは今でも鮮明に覚えている。国際武装テログループ、イスラム国。その壊滅のため私は仲間たちとともにイラクの地を走っていた。正義のため? 祖国のため? はたまた憧れたヒーローのため?

 いいや、まさか。それが仕事だったからだ。敵なんてどうでもよかった。

 でもだ、間違えてはならない。

 戦争は変わらない。終わりは見えない。

 けれど、私には仲間がいる。彼らがいることを。

 そんな私たちに、やつらはRPGの弾頭を打ち込んできた。

 まるで、世界貿易センターに旅客機が突っ込んでいった時のようだった。激しい爆発音、強風。悲鳴。テレビ越しなんかじゃない、すべてがリアルだった。

 なにより、苦痛だ。全身から感じる痛みにすべてを忘れそうになる。

 横になっていた私は慌てて腕を振ろうとしたが、それすらできなかった。

 肘から先が、なくなっていた。真っ黒に焦げたそれが私の腕だと知った時、私は泣きそうだった。自分の体から焦げた臭いがするのはなかなかにくるものがある。さらに焦げた腕の先には骨が出ており、それも焼け焦げていた。

 痛みと理解に発狂しかけた。もう終わりだ。もう終わりだ。その中で、ふと思ったんだ。

 仲間はどうなった?

 激痛が走る中私はなんとか顔を動かした。爆発の破片を受けて大勢が死んでいた。わずかに被害を免れた者もいたが、大勢の敵がねらい打ちにしていた。壁を遮蔽物にして必死に身を隠している男の姿が見える。そんな彼に、容赦なく銃弾が打ち込まれていた。

 やめてくれ、そいつには夢があるんだ。大勢の負傷者を助けたいという夢が。そいつには家族がいて、金を送らなくちゃならないんだ。みんな、いいやつなんだ。

 なのに、私はなにもできない。

 二人は意を決し壁から身を乗り出した。何発か発砲するが、しかし貫かれたのは自分たちの体だった。

 戦場が、すべてを奪っていく。取り戻した心すらもだ。

 私は泣いていた。その涙は私の人であった心を溶かしていった。

 私は痛みと死に際の中で誓ったのだ。

 私は、絶対にイスラム国を許さない。

 たとえ戦争が変わらなくても、終わりがなかったとしても。

 私は戦い続ける。

 これは戦争じゃない。

 復讐だ。

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