SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

リベンジ 2

 小さなつぶやきは誰にも聞こえない。獅子王はすぐさに表情を切り換えエフェクトの調整に励んだ。

 守人は飛んだ。そう思えるほどの踏み込みだった。一足の間合いでベルトラムの元へと現れ打ち出す拳で腹部に穴をあける。

「がああ!」

 体の中心から広がる激痛に表情が歪む。すぐに離れ体を治すが瞬間に守人は現れ今度は右腕を引きちぎっていった。

「ぎゃあああ!」

 痛い。痛い。痛みで頭の中が焼けそうだ。この痛みを最短で治さなければ戦闘どころではない。体勢を整え反撃するためにもまずは体を治す。

 しかし、すぐに襲いかかる新たな痛みが前提を覆す。再生が破壊に追いついていない。次々襲いかかる痛みが恐怖になっていく。

「許さない」

 この痛みはベルトラムの抵抗を意識からへし折ってくる。食らいついて放さない、狼のように。

「許さない」

 痛みが、恐怖をつれてやってくる。

「ぐああああ!」

 焦る。焦る。痛い。痛い。痛いのはもう嫌だと体を治すのにすぐ痛みがやってくる。治すことが無駄だと思えてくる。

 このままではいずれ頭部を破壊され本当に死んでしまう。

 ベルトラムにとって肉体とは換装パーツのようなものだが、自意識というのは一つしかない。それがコアであり、これを壊せれればすべての肉体は停止する。ネットワークの核だ。

「ちぃ!」

 こうなっては仕方がない。

 ベルトラムは人型であることを諦めた。

 自分の意識を一匹のコウモリに宿し、群に隠したのだ。千を越えるコウモリに紛れてしまえば攻撃が当たることはない。

 自分の意思に従い動く他のコウモリたちに相手をさえ自分は自衛に徹すればいい。

 この数なら当たる確率はないし見分けなどつかない。

 大丈夫。どれだけ強大な力を持っていても数で押しつぶしてしまえばいい。あのフェルナンドも夜まで待って自分で倒すつもりだったのだ。

 大丈夫、これならいける。

「そんなわけないだろう」

「!?」

 コウモリである自分の体が震えた。まるで自分の心の声に返したような、守人の台詞。

「土に帰れ」

 そう言うと守人は腕を伸ばした。そして、すべてのコウモリに対し精神攻撃を行ったのだ。

 本来ベルトラムには異能耐性があるため精神攻撃は利かない。

 だが、今の守人はエフェクトを上回るほどの異能耐性を発揮している。

 その力が、ベルトラムの耐性すら越えていった。

「ギィイ!」

 それによりコウモリから声が漏れる。

 ここにいるコウモリの大群はいわばベルトラムの手足のようなもの、命じれば動くが意思があるわけじゃない。この場にいるベルトラムの意識は一つだけ。

 よって、精神攻撃を受けるのはベルトラムの意識がある一匹だけであり、飛行不能に陥った一匹だけが地面に落下した。

 守人はゆっくりと歩み寄りそのコウモリを拾い上げる。

 精神を破壊するほどの圧倒的な嫌悪感と倦怠感、罪悪感に不快感。精神の泥におぼれコウモリと化したベルトラムはぐったりとしていた。

 守人は片手で掴んだコウモリを黙って見つめていた。

 他のコウモリたちは辺りを周回している。

 命令がなければ動かない手足というのはこういう時に裏目になる。 

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く