SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

リベンジ

 守人の力が増しベルトラムの腕が下がる。守人は一端腕を引いてベルトラムの手を外すと、全力で振り下ろした。

 それを察したベルトラムは体をコウモリに分離し逃げ出した。離れた場所で体を再構築する。せっかく捉えたがこうされてしまえば意味がない。

「そうかいそうかい、邪魔するっていうなら仕方がないわな」

 ベルトラムは苛立ち守人を睨みつけている。その目は殺意に塗れていた。

「もういいわ、上からは要らぬ戦闘はするなと言われてたんだがな。任務に支障をきたす存在なら殺すしかないわ」

 想定外の邪魔にベルトラムの意識も鋭さを増している。任務こそが最優先だというのにそこに茶々を入れる同業者がいれば頭にもくる。

 それが自分を負かした相手となればなおさらだ。自分の成すべきことを成すためにもこの男は殺さなくてならない。

 だが、そうと決まれば願ってもない展開だ。初戦、全力が出せない状態での敗北、納得いかない雪辱を晴らせる好機。

 今の自分はかつての自分とはまったく違う。あんなものは手錠をはめたボクサーだ。

 自分は夜の怪物、闇の伯爵。夜に支配と翼を広げ君臨する吸血鬼なのだ。

「寿命を縮めたなイレギュラー」

 それが死刑宣告のようにベルトラムは告げる。夜において彼は無敵だ、イレギュラーなど些末事。

 殺してしまえばあらゆる問題にケリがつく。

 ベルトラムは、守人を殺すため動き出した。

「があああ!」

 だが、しかし、

「黙れ」

 悲鳴を上げていたのは、自分の方だった。

「寿命を縮めたのは貴様の方だ」

 守人の拳がベルトラムの左胸を貫通していた。いや、破損させている。まるで大きなあぎとで食いちぎられたかのように守人の左フックがベルトラムの肉塊を吹き飛ばしていた。

「がっは!」

 吐血に咽せる。それどころかえぐられた胸部からも大量の血液がこぼれている。

 ベルトラムはすぐに体を分離して避難、再構築することで完全体となっていた。傷はない。再構築する際にそこは補填している。

 不死身の吸血鬼は伊達ではない。

 だがベルトラムは驚愕していた。イレギュラーのスピード、パワーはどちらも以前の戦いの時よりも上がっている。

 自分の肉体も夜に活性化しているはずだが、イレギュラーの向上はそれすらも上回っていた。

 もし、今の一撃が頭だったらまずかった。吸血鬼の対処法には伝統的なものがいくつかあるが、その一つに首をはねるというのがある。

 如何に吸血鬼といえど首をはねられるか頭部を破損されれば再構築するまでもなく死んでしまう。

 自分は今、死にかけたのだ。

 ベルトラムの額に一粒の汗が浮かんだ。

 だが驚愕していたのいはベルトラムだけではない。否、それよりも特戦の会議室は混乱していた。

『ファースト?』

 麗華も例外ではない。今し方の動きは信じられない。

 なんだ今の一撃は? 明らかに今までとは違う。

 これには牧野も危機感を露わにしていた。

「今の出力は? 獅子王、どうなっている?」

 守人にはエフェクトスーツによる制限が課せられている。多少の解放はしているとはいえ手錠をしたボクサーのはず。

「なんてことだ」

 獅子王は片手に持ったタッチパネルの画面を見ながら驚嘆していた。それは焦りだが、そこには純粋な驚きと新発見を目撃した喜びすらあった。

「エフェクトの制限が、徐々にだが無効化されている」

「なに?」

 獅子王はタッチパネルから顔を上げた。

「異能耐性だ。彼の異能耐性がエフェクトの制御を上回り始めている」

「どういうことだ!?」

 牧野から激しい声がする。手錠が途中から柔らかくなるなど聞いていない。

「力自体が最初から制限された状態なんだぞ、なぜ上回る?」

「おそらくだが、彼の精神状態とアザゼル因子が共鳴、共振している」

「…………」

 牧野は言葉を失った。そうなればどうしようもない。

 獅子王はタッチパネルとは別に机に置かれているパソコンに指を向けた。

「現在ファーストが生成している力を取り込み力の制御機構に回している。彼が力を増せば増すほど制御する力も上がるが、間に合っていない」

 獅子王の両手がキーボードの上で恐ろしい早さで動いている。表情も真剣なものになっているが、ふとその顔が悲観に暮れた。

「なるほど」

 なにがなるほどなのか、それだけを聞いて分かる者はいない。それは獅子王宗作の、個人的な感慨だったからだ。

「君の言うとおり、か。これが異能アーク、第三の選ばれし者の力。君はこれを見越していたのか、正人」

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