SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

喪失 2

 小さな手も、小さな足も、小さな顔も、全身が血だらけだった。揺すっても反応はなく、息もしていない。

 死んでいた。彼女は、死んでいたのだ。

「…………」

 念のために首筋に指を当ててみても、そこに生きている証はない。守人は彼女の遺体を床に置き、自身もその場にへたり込んだ。顔が、ぐったりと下を向く。

「止めろベルトラム!」

 そこで声を上げたのは彼女、エリーだった。なんの躊躇もなく人を殺害していく男を見上げ止めるよう叫ぶ。

「てめえも分からねえな。止めろだと? ここにいる連中は知っちゃいけないものを見ちまった、運もなかった。なにより俺は兵器だ、人を殺すために生きてるんだよ」

 彼の言うことにも一理ある。三人はG4、人の形をしているが兵器として生まれた存在だ。兵器が人を殺害することになんら不思議はない。むしろそうするために存在している。

 だが、エリーも負けずと言った。

「お前の言うそれはただの詭弁だ! 兵器だから人を殺していいと誤魔化しているだけだ! いいかベルトラム」

 兵器を大義名分にした人殺し、そんなものは許さないとこの男を見上げて叫ぶ。

「私たちは兵器なんかじゃない、兵士だ!」

 それは自分たちが兵器であることの否定であり、人間であることの肯定だった。

「考える頭がある。心がある! 兵器にないものを持っているからこそ私たちは人間なんだ!」

 その声には感情があった。彼を見る瞳には意志があった。それらは兵器にはない、人間性の証だ。

「アーハッハッハッハ! ハッハハハハハ!」

 彼女の血の通った主張、それを、ベルトラムは笑い飛ばした。

「兵器が」

 空港の内部は今も無数のコウモリたちに蹂躙されている。その中心、黒の竜巻の中で男は謳うように言う。

「人を殺すのを」

 特異な力、日が落ちた時に覚醒する夜の王。

「躊躇ってたら駄目だろうが!」

 それが彼の答えだ。兵器に余剰があるなら捨てればいい。兵器に人間性なんていらない。

「俺が最強なんだ」

 彼は真性のG4だ。人を殺すために生きている。

「どの兵器が最強か、優秀か。そんなものは決まってる」

 だからこそ、彼は虐殺も躊躇わない。

「最も人を殺した兵器が、最強だ!」

 そう言って、ベルトラムは再び笑った。

 守人はその場に座り込みながら沈黙していた。少し視線を上げれば少女の遺体がある。さらには母親の遺体も。守人は少女の頬を軽く触れたあと、再びうつむいた。

 救えなかった。助けようとしたのに結果はこの様だ。

 昔と同じ。自分はなにも変わっていない。救えなかった代わりに、次こそは救おうと決めていたのに。

『なら君も頑張ればいい。それで許されるはずでしょ?』

 そのためだけに頑張ってきた。なのにこれはなんだ。

 自分の思いも信念も踏みにじられて。まるでお前の努力は無意味だったと突きつけられて。

 一度は救えたと安堵したというのに。

 この男は、彼女を殺し、あざ笑った。

「うおおおおおおおお!」

 自分の無力さも、後悔も今は後だ。

 守人は雄叫びと共に立ち上がった。

「貴様ぁー!」

 守人はベルトラムを見上げた。

「ああ?」

 呼ばれたことに不愉快な顔でベルトラムが守人を見下ろす。

 直後、飛行してきた守人に突撃された。

「があ!」

 守人はベルトラムの腰に腕を回すと地面に叩きつけた。激しい衝突に床が割れベルトラムの顔が歪む。

「今すぐこれを止めろ!」

「ああー?」

 守人はベルトラムに馬乗りになり顔面を殴りつけた。

「があ!」

「今すぐ止めろ!」

 守人は叫び脅迫するように言う。しかしすぐに止まる気配はなく再び拳を打ち付けた。

 が、ベルトラムがその拳を掴む。守人とベルトラムで力の押しつけ合い顔が近づいた。

「いい加減にしろよ、てめえもよ。分かるだろ、ここにいる連中は生かしておけない。そしてそれを消すのが俺たちだろうが!」

「勝手に俺も含めるな!」

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