SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

喪失

 守人は見上げながらそう言うとベルトラムは大笑し始めた。なにがそんなにおかしいのか黙ったまま待つ。 

 ベルトラムは一頻り笑ったあと言ってきた。

「てめえ、俺に一回勝ったからって調子に乗ってるんじゃねえぞ。殺すぞ?」

 最後の言葉には間違いなく殺気が込められていた。守人は拳を強く握りしめる。いつでも攻撃に移れるように意識を変えていく。

「が、安心しな」

 しかし、意外にもさきに戦意を解いたのはベルトラムの方だった。

「てめえの殺人計画はまだ先だ、こっちは仕事で来てるんだからな」

「仕事?」

 ヘルメットの中で眉を曲げる。自分を倒すこと以外の仕事とはなんだろうか。

「まったく」

 そんな守人の反応にベルトラムは濃いため息を吐きながら顔を振った。

「こんなアマチュアに負けた自分が情けなく思えるぜ」

「その通りだな」

「殺すッ」

「プロは仕事優先だろ?」

「てめえ……。ったく、お前等が不甲斐ないから俺が出撃するはめになったんだろうが」

 守人に苛立ちを隠さずベルトラムは怒気を露わに話す。だが意識を切り換えた。

「もういい、さっさと終わらせよう」

 そう言うとベルトラムが着ている外套が広がった。内側の暗い闇は洞窟の入り口のようで、そこから無数のコウモリが飛び出してきた。

 すさまじい数だ、数百、それか千に届く翼手たちが空港を黒に上塗りしていく。それでもまだ出現してくる。

 この事態にまだ空港内にいる人たちから悲鳴が上がる。

「なにをするつもりだ!?」

「おいおい、本気でわかんねえのか?」

 ベルトラムが楽しそうに答える。焦る守人を愉快に見下ろした。

「口封じに決まってるだろ?」

 瞬間、この場は第二の地獄に落とされた。一人の大鬼ではない、無数の脅威がこの場の人々を蹂躙していく。

「きゃああ!」

「止めろぉおお!」

 コウモリの群が襲いかかる。腕に、足に、首に噛みつき、息の根を止めていく。

 数の暴力だ、キャンプをしていた人が軍隊アリに襲われ白骨化する事件があったように、全身を覆うほどの数に為す術もない。

 人が、次々と倒れていく。

「させるか!」

 守人は腕を伸ばして念じた。これほどの数を同時に相手にしたことはないがやるしかない。逸る心のままにコウモリの動きを止めようとする。

 しかし、コウモリは全部どころか一匹も止まらなかった。

「なぜ!?」

「ハッッハッハッハッ! 利かねえよイレギュラー。以前は手を抜いて悪かったな。だが安心しな、夜の俺はあの時とは違う。今の俺に異能は利かねえよ!」

 この男も異能耐性を持っている。守人の念動力が通じない。

「くっ」

 守人は襲われている一人に駆けつけ群がるコウモリを殴り倒した。一匹ずつ掴み握りつぶしていく。コウモリはすべて取り除けたがその人は全身を噛まれていた。

 駄目だ、とてもではないが間に合わない。フェルナンドの時とは違い広範囲過ぎる。

「嫌ー!」

 その時聞き覚えのある声が聞こえてきた。それはさきほどの母子だった。見ればすでに母親は倒れており、女の子が襲われている。

「!」

 守人は走った。必死に、彼女の元へと足を動かす。

 しかしそれを阻むようにコウモリの群が守人の前方を塞ぐ。守人は腕を振るいコウモリを薙ぎ払いながら進んだ。コウモリが邪魔でうまく進めない。

 守人はそれでも走り続け少女にたどり着いた。横になる彼女を覆うコウモリを急いで剥がしていく。

「頑張れ!」

 彼女を助けようとする守人にもコウモリが群がる。けれど自分のことは無視して守人は彼女を救うことだけに腕を動かした。

「今助ける!」

 一秒が惜しい。一匹に殺意が湧く。

(くそ!)

 焦る。焦る。このままでは彼女が死んでしまう。一度は救ったはずなのに。

 守人は少女に群がるコウモリをすべて剥がし終えた。

「大丈夫か!?」

 急いで声をかけた。彼女の上体を両腕で抱える。

「…………」

 少女は、返事をしなかった。

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