SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

再戦

『君の戦いは無駄なんかじゃない、君はちゃんと守ったのよ。本当に、よく頑張ったわね』

「ありがと」

 守人は小さくお礼を言って辺りを見渡した。瓦礫やガラスの破片で散らばった空港内は本当に爆弾テロでも起きたような惨状だ。

 これが格闘戦で起きたなど言われても信じる人はいないだろう。

 外に目を向ければもう日が沈みかけている。夕日の赤い光が入り口付近を染めていた。

 と、その赤い光の中から一人の人影が入ってきた。

 それはさきほど共闘した女性のG4だった。まだ傷は治っていないらしく片手を腹部に当て顔は辛そうだ。

 安静にしていなければならないはずだが、あの場所からここまで歩いてきたのか。そのことに彼女の強さを感じる。

 彼女は守人を見つけたあと少しだけ驚いたような顔をした。そのあとすぐに足下にいるフェルナンドに視線を移した。彼女の顔は小さく笑い守人を見た。

「そうか、勝ったのか」

「まあな。そんなことより大丈夫なのか? 傷はまだ治っていないんだろ?」

「なに、死ぬようなものじゃない」

 彼女はそう言うが放っておいていい怪我じゃない。だが気丈に答える彼女に守人はそれ以上言えなかった。

「意外と言えば意外だったよ。まさか一人で倒すとは」

「最低限の責務は果たした、ってところかな。最高の結果じゃない」

「が、最前は尽くした」

 女性は守人をまっすぐと見つめていた。彼女には強い芯を感じる。軍人らしといえば軍人らしい。

「聞かせてくれ、お前たちは何者だ。こいつらとどんな関係がある?」 

「それは」

 彼女がどこの国のG4なのか。それは分からない。だが自分たちの知らないなにかをしているのは確実だ、情報源になる。

 彼女は視線を逸らしたあと言いよどむ。どうするべきか考えているようだが、どうやら彼女は規則を優先したようだ。

「悪いが、私の口からは言えないな」

 当然だろう、G4とはいえ一介の兵士に過ぎない。それが自分の独断で話せるわけがない。

「戦うか?」

 彼女が聞いてくる。守人たち特戦側としても今は情報がほしい。その手がかりが目の前にあってむざむざ見逃す理由はない。

「いや、今日は疲れた」

 が、守人は断った。

『いいわよ、ファースト。今は無理しなくていいわ』

 それを麗華も賛同した。

 今日一日だけでゾンビ病、そしてフェルナンドと戦った。ダメージはこれで限界だ、無理に戦えばどうなるか分からない。敵対する相手を増やすのもいいとは言えない。

 情報はほしいが、彼を失うことはもっとあってはならない。

「同感だ」

 手負いの彼女も疲れたように返した。彼女も骨が折れた状態で戦いたくはないだろう。

「こいつが倒れたなら私がここにいる理由もない」

 そう言って彼女は踵を返す。出会いは偶然ではあったがともに戦った仲だ、少しばかり名残惜しい気持ちで守人は彼女の背中を見ていた。

「ん?」

 が、そこでなにかに気づいたようで彼女が見上げた。

 外は日が落ち夜になっている。薄闇となった空になにかの影が見えた。

 一つ一つは小さいが多くの群となっている。その黒点はこちらに向かい空港内部に入ってきた。

「これは!?」

「コウモリ?」

 コウモリの群が天井で渦を巻く。それらは集まり、宙の上で人となっていった。それは黒のフードを被ったあの時の男だった。

「ベルトラム!」

 その男を見て女性が叫ぶ。名前を呼ばれ男はフードを脱いだ。

 白い髪の男だった。まだ若い。二十代だろう。切れ長の赤い瞳はナイフのようで、薄く持ち上がった口元は不気味な雰囲気を醸し出している。

 外国人の見分けが得意というわけではないが、賢条の言ったとおりヨーロッパ系に見える。

 それにベルトラムというのはドイツに多い名前だ。こちらは偽名の可能性が高いが、彼がEUのG4だという狙いは当たっていたようだ。

「おいおい、それはないだろう、エリー」

 ベルトラムと呼ばれた男はお返しだろうか、彼女の名前を強調して言った。

「部外者がいる中で、それもこいつの前で言うのかよ」

 ベルトラムは守人を見下ろす。その目は相変わらず好戦的だが細められた視線には増悪が混じっている。

「よう、久しぶりだなイレギュラー。忘れちゃいないんだろ?」

「リベンジでもしに来たか?」

「ハッハッハッハッハ!」

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