SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

奮起

 守人は車から腕を引き離しすぐに起きあがった。フェルナンドの背中を追いかける。

「空港は今どうなってる!?」

『テロの爆弾が見つかったとしてすでに避難誘導がされてる。でも時間がぜんぜん足りないわ!』

「くそ」

 守人は再び飛びフェルナンドを追跡する。その大きな背中に抱きつき首に腕を回した。

「止まれ!」

 首を締め後ろに力を入れる。

 が、

「く!」

 フェルナンドの姿勢は一切変わらず激走を続けていた。

(これでも変わらないのかッ)

 フェルナンドは走り続け空港がみるみると近づいていく。路上に停めてある車を吹き飛ばし進むさまは竜巻のようだ。

 市街と空港をつなぐ、現在でもイラク民兵の攻撃を受けるルート・アイリッシュと呼ばれる道路は世界で最も危険だと言われるがこれには及ばない。

 このままでは市民にまで見つかってしまう。それはなんとしても防がなければならない事態だ。

 世界の裏側に隠された数々の異能や神秘。それらを明るみに晒せば世界は混乱する。どれだけの影響があるか分かったものではない。特戦も、聖法教会も、各国も、それは同じだ。

 だが、

 ついに、

「なんだあれは!?」

 封鎖線の外にいた一人が声をあげた。姿が見えなくても車が吹き飛ぶ音は聞こえてくる。それが近づいてくればなおさらだ。

 その原因に、空港を警備するイラク兵から避難していく大勢の人たちが見た。

 停車している車を片腕で退かし、投げる、大男が突進してくる姿を。あり得ない。その大きさも、している出来事も。普通の人間では不可能だ。

 フェルナンドを見た誰しもが思った。

 これは、人間ではないと。

 ついに、人々は目撃したのだ。世界の裏側に秘められた存在を。

 SCP。実在する超常現象をその目に捉えたのだ。

『見られた!』

 麗華も彼らの視線をとらえた。何事かと唖然とする、もしくは危機感を露わにする多くの表情がある。

 守人も内心で舌打ちした。バレた。そのことは大きな失態だが今はこいつを止める方がさきだ。

 そこでフェルナンドは交差点に足を踏み入れた。当然信号は無視している。そもそもルールを知っているかも疑わしい。

 結果、悲劇は起きた。飛び出してきたフェルナンドと走行中の車が激突した。

 とてつもない音が響く。その瞬間に多くの人が悲鳴を上げた。

 フェルナンドにぶつかった車は前面がひしゃげ、宙で半回転すると屋根から地面に落下した。

 辺りは静まりかえった。

『なんてこと……』

 目撃された。さらに犠牲者まで出た。

 最悪の展開だった。

「グオオオオオオ!」

「きゃあああ!」

 フェルナンドの咆哮に今度こそ人々は逃げ出した。この怪物から逃げるため我先にと足を走らせている。この場はパニックだ。悲鳴や怒号が飛び交っている。

『すぐにこちらからも部隊を派遣して!』

『手配はすでにしています。藤森。現場に急行して通信機能抑止装置をすぐに起動するように』

『了解』

 フェルナンドの出現に警備に当たっていたイラク兵たちが銃口を向けながら集まってくる。

 その者たちをフェルナンドは見つめていた。目は空腹の野人が見せる恍惚と凶暴さを映している。

 食う気だ。

「止めろ!」

 フェルナンドの動きを察知した守人はフェルナンドの顔を殴りつけた。

 それにはフェルナンドも無視できず両腕を背中に回し守人を捕まえようと体をぐるぐると回す。守人は足が捕まれ正面に投げられてしまった。

 すぐに体勢を整え片膝を地面に着くが、フェルナンドのタックルに合い体を捕まれしまう。

 フェルナンドは守人を抱え、警備員たちを無視して走り出した。そして、閉まり出した門を彼を道具にして激突したのだ。

『フェルナンド空港敷地内に侵入!』

 まるで爆発のような衝撃で門が破壊される。フェルナンドは驚く通行人を無視してターミナルにも突撃していった。

 空港の入り口はいくつもありどれもガラスでできていた。フェルナンドとの衝突にガラスが砕け散っていく。

「があ!」

 守人は投げ捨てられ転がりながらターミナルの中へ入っていった。高い天井にきれいな室内は中東のイメージから外れるほどに近代的で美しい。

 だがガラスがすべて砕ける音に大勢の悲鳴が上がる。爆弾テロという話で避難していたので爆発が起こったと思ったのだ。

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