SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

 彼女は守人のすべてだ。だけど四年前、彼女を失った。もしかしたら救えたかもしれないのに。

 それに報いようと今までをがんばってきたけど。守人には自分に自信が持てない。

『ファースト!』

 そこで、さらに声が聞こえた。最初は必死で、けれど次には辛そうなが聞こえてきた。

『ごめんね……』

 その声に、守人の胸が締め付けられる。

『君を巻き込んでしまった』

 いいや、それは違う。彼女は今までよくしてくれた。自分のために人生までかけてくれたのに、なのにまだ自分のために思い悩んでいる。

 彼女は失った。でも、今の守人は一人じゃない。

「おまえのせいだ」

 そう、自分のせいだ。誰よりもそう思ってる。でも、だからこそ、誰よりも変わりたいと思ったんだ。

「がんばって、守人君」

 まだ、終わりじゃない。

 まだ、まだだ。大切な人は他にもいる。自分に笑顔を向ける人がいる。自分を心配してくれる者がいる。自分はまだ、一人じゃない。

 そして、それは自分だけじゃない。この世界で生きる誰だって、大切な誰かと生きているんだ。

「姉さんも同じさ」

『ファースト!?』

 挽回はまだできる。

 変われることは、できる。

 今なら!

「ぐぅ!」

 守人は両手に力を入れた。たとえこの腕が折れようと体を起こしてみせる。

 立て、立ち上がれ。どんな痛みに襲われようと、それよりも辛い思いがあると知っているから。

 守人は、立ち上がった。

『ファースト!? 無事なの?』

「フェルナンドは?」

『現在エアポートストリートから最終防衛線を突破しバグダット空港に進行中よ』

「まずいな」

 このままじゃいられない。すぐにでも行かなければ。

『ねえ、本当に大丈夫なの?』

 守人はすぐにでも行こうとするが麗華はまだ心配している。

 守人は間違いなく重傷だった。体中の骨に亀裂が入り彼の攻撃を防御していた腕は完全に骨折していた。

「大丈夫だ」

『そんなこと言ったって』

 守人はそう言うがにわかには信じられない。麗華は心配するがそこで気づいた。

 エフェクトスーツからの警告音が消えている。ヘルメットのヒビは修復されその他の破損も直っていた。

 エフェクトスーツは有機金属。生き物のように自己修復機能がある。そして守人もG4。全身に行き渡ったアザゼル因子は彼の回復力を向上させていた。

 守人は新品同様となったエフェクトスーツに身を包み、立ち上がっていた。

「今から走っても追いつけない。飛行していく!」

『分かった。出力の上限を一部解放するわ』

 守人は体を浮かした。バグダット空港の方へ顔を向ける。

「姉さん」

『え?』

 そこで彼女に声をかける。なんだろうかと待つ彼女へ、守人は言った。

「ありがとう」

 これまで彼女にはたくさんのものをもらってきた。守人のために自分の人生すら捧げてくれて。

 そんなもの、どれだけ考えても返す方法なんて浮かばない。

 ならせめて、自分にできることを。

 守人は飛んだ。フェルナンドが向かっているバグダット空港へ。

 フェルナンドは防衛線を蜘蛛の巣のように引き裂きなお前進を続けていた。その歩みを阻むものはない。食事の匂いに誘われて突進する猪だ。

 そこへ守人は降り立った。空からフェルナンドの正面に立つ。

「勝手に行くなよ、寂しいだろ」

 フェルナンドは守人を憎んでいる。その敵が現れたなら追ってくるはずだ。守人は機を見て誘導しようとするが、

「オオオオオオ!」

 フェルナンドは守人を邪魔だと言わんばかりに払うとそのまま走り去ってしまった。守人は乗用車に激突し体がめり込んだ。

「ちぃ!」

『フェルナンド、なお空港方面に進行中! どうも意識がないようね』

「やってやる!」

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