SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

暴走

 守人の画面は麗華のパソコンにも映されていた。古いビデオテープのように映像が乱れフェルナンドの雄叫びと轟音が間断なく聞こえてくる。

 麗華は画面を見ながら戦慄していた。このままでは守人が死んでしまう。そう思っただけで指は震え瞳からは涙がこぼれそうだった。

 なんとかしなければならない。麗華は下唇を強く噛み、決断とともに顔を上げた。

『このままではファーストがやられるわ! エンジェル・オーバードーズの承認を!』

 見つめる先は現場責任者の牧野だった。

 麗華の発言に一瞬この場の動きが停止した。

 コード名、エンジェル・オーバードーズ。それは守人の出力無制限、全力状態を示すものだ。それにより彼の力は劇的に向上する。

 この状態でなければ使えない能力も確認されている。

 しかし、アザゼルの全解放とは負の面も無防備になるということだ。もしフラッシュバックが起これば暴走状態になる。

 佐宝事件の二の舞だ。

 それを防ぐために獅子王宗作にエフェクトスーツの制作を指示し、エンジェル・オーバードーズの承認には特異戦力対策室と聖法教会の両者が必要になっている。

 麗華は聖法教会の代表として承認権を持っている。あとは特戦側の承認があれば彼は全力で戦える。この逆境すら覆せるはず。

 麗華は息を飲んで答えを待った。

「いえ、エンジェル・オーバードーズは承認できません」

「牧野!」

 が、返ってきた答えは期待したものとは違った。

「エンジェル・オーバードーズ状態になれば暴走の危険性があります。リスクが高すぎます」

「リスク!? リスクどころか彼を失いかけているのよ!?」

「暴走した彼を抑える手段がありません。そのためのエフェクトスーツです」

「獅子王」

 悲痛な目で獅子王を見る。エンジェル・オーバードーズの暴走状態。仮にそれがなったとしてもエフェクトスーツで強制的に押さえ込んでしまえれば問題ない。

 獅子王もそれは分かっていた。分かった上で、獅子王は正面を向き言った。

「アザゼルの全力状態。エンジェル・オーバードーズとなればエフェクトスーツでも制御するのは不可能だろう」

「く」

 エンジェル・オーバードーズは使えない。そうしている間にも守人はフェルナンドの攻撃を受けている。

(守人君)

 麗華は祈る気持ちで画面を見つめた。

 度重なる攻撃に守人の体は防御すらとれずフェルナンドの攻撃に晒されていた。

 プレス機のように幾度となく押しつぶされる。反応すらなくなった守人をフェルナンドは片手で持ち上げると地面に叩きつける。

 子供が人形を振り回すように扱い乱暴に投げ捨てた。

「う……うう……」

 守人はうつ伏せに倒れる。体中で痛みが発生していた。立ち上がって戦わなければならないと頭は訴えているのに、体が思うように動いてくれない。色と音が薄くなる。

『ファースト! ファースト!? 返事をして!』

 意識が、遠のいていく。

「グオオオオオ!」

 フェルナンドは怒りに狂っている。雄叫びは獣のようでもはや自意識があるのかも怪しい。

 フェルナンドは叫びながら走り出した。公園を飛び出し大通りへと向かっていく。

『フェルナンド移動開始!』

 二人のG4を置き去りにしてフェルナンドは走っていく。顔は新たな獲物を探すように左右に動き、見つけた兵士たちに襲いかかった。

 フェルナンドをここに押しとどめるための兵士たちだ。彼らはフェルナンドを見つけるなり発砲する。

 銃弾は命中。しかしフェルナンドには傷ひとつなく突進してくる。でかい的だとRPGを打つもフェルナンドは片手で掴み明後日の方向に投げ捨てる。

 そのままフェルナンドは直進し兵士たちと衝突した。

 武装した人間をビリヤードのように弾き跳ばし、フェルナンドはさらに進撃していく。

「やつを止めろ!」

 いくつもの銃弾が交差する。そのどれもが彼の足を止められない。

 兵士の一人は装甲車に乗り込んだ。アクセルを踏み込みフェルナンドに突っ込んでいった。

 兵士の決死の突撃は、しかし無情にもフェルナンドの片腕であっさりとひっくり返されてしまう。装甲車は横転しタイヤが空しく空回りしている。

「ウオオオオ!」

 フェルナンドは兵士たちを掴んでは叩きつけ、投げ捨て、殲滅していった。怒りは無差別に向けられ多くの犠牲者を出していく。

 目に付く兵士全員を倒しフェルナンドは移動を再開させた。

『フェルナンド第一包囲網を突破! まずいわ、このままだと市民にまで被害が出る!』

『それだけでなく、SCP、そして私たちの存在まで露呈する……!』

 フェルナンドは大通りへと出た。乗り捨てられた車に道や建物には人気がない、無人の地区だ。幸いまだ封鎖地区の内だがこの先はまずい。

『まずいわね、フェルナンドは南下。エアポートストリートに出てるわ』

 この道の先にはバグダット空港がある。テロが起こったとして飛行機は現在運転を見合わせておりまだ大勢の人が残っている。

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