SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

第二戦 2

 あの時の声だ。あの声はまずい。あの声は奈落に潜む亡者の声だ。引きずり込まれる。決して逃さず、絶対に許さない。

「フゥー、フゥー」

 守人の背筋を冷たい汗が通っていった。

『ファースト!? ファースト!? 返事できる? ファースト!』

「……大丈夫だ」

 守人は起きあがった。気分的にだいぶ落ち着いてくれた。気を引き締め敵を見る。

「ごめん、返事が遅くなった」

『……ううん。無事でよかった』

 守人からの返事に麗華も安心したように言い落ち着きを取り戻す。

『大丈夫なの? 戦闘に支障はない?』

「やるさ。それに今は好機だ」

 麗華からの心配に気丈に答えつつ守人は敵の姿を見ていた。

 傷は負ったが得たものは大きかった。あれほど堅牢だったフェルナンドが膝を屈しているのだ。

 しとめるなら今しかない。ここで退いてはフェルナンドは倒せない。

 フェルナンドは守人たちに背中を向けており息を整えていた。その体が起きあがる。それでもダメージは残っており足下が二、三歩ふらついていた。

 相手は間違いなく弱っている。その体が振り返り守人を見つめてきた。

 その顔は、鬼のような形相だった。

「お前は嫌いだ」

 フェルナンドが走り出してきた。肩を突きだしタックルの姿勢だ。

「イレギュラー下がれ!」

 彼女が守人の前に立つ。地面が盛り上がりフェルナンドとの間に土の壁を作った。

 が、フェルナンドの突進はそれを容易く打ち壊した。銃弾を通さない塹壕のような壁が発泡スチロールのように砕け散っていく。

 彼女は何枚も壁を作っているがフェルナンドの勢いは止まらない。ついには最後の一枚にまで迫った。

「くそ!」

 彼女が守人を突き飛ばした。直後壁は破壊されフェルナンドのタックルが彼女を吹き飛ばした。

「があああ!」

「おい!」

 彼女はダンプカーにでも衝突したかのように跳んでいった。表情は激痛にひきつり腕や胸を押さえている。

 骨折や内蔵にダメージがいっているようだ。あれではもう戦えない。

 守人はすぐに立ち上がりフェルナンドと対峙した。

「俺はこっちだぞ」

 彼女に手を出させないよう声をかける。挑発は成功しフェルナンドの正面は完全に守人に向いていた。

 その鬼気迫る立ち姿は大鬼だ。さきほどまでの穏やかな凶人ではなく、敵意を炎のようにまとう怪物だ。

「殺す」

 言葉使いにも紳士然とした佇まいはない。別人だ。殺意が、敵意が、怒りが、すべて守人にぶつけられる。

 フェルナンドは大きく息を吸い込んだ。

「ゴオオオオオオオ!」

 フェルナンドの発した雄叫びは強風となり 守人の身動きを一瞬封じるには十分だった。

 フェルナンドは走り出し守人と両手をつかみ合う。押しつぶされるほどの圧力に両手が握りつぶされそうだ。

「ぐぅ、がああ!」

 守人の両手、そのエフェクトスーツが軋む。力比べでは何度やってもこの男には勝てない。腕どころか背骨すら折られそうだ。

『このままではまずい! 上限を解放! 出力50%で対応して!』

 麗華からの指示にエフェクトスーツの制限を解除する。体内に眠る不完全燃焼だったアザゼル因子に酸素を送り膨大な燃焼を力に換える。

「うおおおお!」

 フェルナンドの力に力で対抗する。圧しかかる重圧を押しのけるため全力であらがう。

「ガアアアアア!」

 が、フェルナンドの両腕が守人を地面に押しつけた。地面に横になった守人の腕を押さえつつ、片手で殴り始める。守人は片腕で咄嗟にガードする。

「ぐあ!」

 フェルナンドの拳は守人の胴体ほどあった。それが容赦なく守人の体を襲う。

「ウオオ! オオ! オオオオオ!」

 幾度となくフェルナンドの拳が振るわれる。異様に発達したその肉の塊は守人の体に深刻なダメージを刻んでいく。

 守人の画面にはノイズが走り警告音が鳴り響くが腕を捕まれ逃げられない。

『ファースト!?』

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