SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

第二戦

 二人とも体を起こす。攻撃は与えているはずだがフェルナンドに怪我も疲労も見えない。

 あの肉体、ただ大きいだけではない。疲れない、傷つかないという力が働いているはずだ。守人はフェルナンドを見ながら隣に声をかけた。

「もう一度やつを沈められるか!?」

「やってどうする、再び逃げられるぞ?」

「それは俺がどうにかする、やれ!」

「指図するな!」

 彼女は地面を操り再びフェルナンドの足下を液体化した。生コンクリートのような状態でフェルナンドの足が埋まっていく。

 守人も念じて上から圧力をかける。

「そう何度もいきませんよ」

 だがフェルナンドもそれは読んでいた。自慢の腕を振り上げ地面を殴りつけたのだ。それにより液体化した地面は飛沫となって飛び散りその隙にべつの場所へと跳んでいった。

「ちぃ」

 捉える前に逃げられる。彼女から盛大に舌打ちが聞こえた。

「続けろ!」

 そう叫び守人は走った。地面を蹴りフェルナンドの顔面を掴むと膝蹴りを加えてやった。それで相手も怯むも守人を掴み引き離そうとする。

 離されまいと守人はフェルナンドの顔にしがみついた。

「やれ!」

 この状態なら地面を殴ることはできまい。両手を使うこともできないはずだ。

 顔面をほぼ守人に覆われフェルナンドの足がおぼつかない。その足がみるみると沈んでいく。

「離れろ! このままだとお前まで沈んでいくぞ!」

「分かっている!」

 彼女の言うとおりこのままではフェルナンドと一緒に仲良く土葬だ。それは避けたい。

 沈む前に、片をつけるしかない。

『ファースト、今よ!』

 麗華のかけ声に守人は力を発揮した。

 相手の精神を操ることにより嫌悪感や不快感を与える精神攻撃。佐宝事件の遊園地ではこれで数多くの聖法教会の騎士たちを倒した。

 如何に鉄の肉体に守られていようとも内側を無防備にされれば意味はない。

「がああああ!」

 守人の精神攻撃にフェルナンドが暴れ出した。上体を激しく動かしロデオに揺らされているようだ。
 気持ち悪いと言えばそれまでだが、フェルナンドが体験しているのは人体が生み出す究極の悪寒だ。

 バッドトリップ。薬物の副作用による地獄の苦しみ。体中の細胞は汚物を排泄しフルマラソンを走ったような疲労感、自殺したくなるほどの自己嫌悪。

 その苦しみは肉体を脱ぎ捨てたくなるほどだ。

「がああ、ああああ、ああああ!」

 生まれて初めて経験する精神の汚濁にフェルナンドが暴れている。

 だが、耐えているのはフェルナンドだけではなかった。

 相手の精神に触れる以上、精神感応は必ず起こる。そのためフェルナンドの精神状態は反動となって守人にも跳ね返っていた。

 被害を最小に抑えるよう努めているが、気を抜けば守人も発狂しそうだ。

「ぐ!」

 天国と地獄はあの世にあるのではない。肉体の内にあるのだ。この体には天国への扉と地獄の釜が眠っている。もし蓋の方を開ければこの世界は地獄と変わる。

 あの時の苦しみを覚えている。自分の絶叫も聞こえない苦痛にもがいたことを。

 なによりも、希望が偽りだと知った絶望を。あれほど真実を恨んだことはない。

 そして、己への後悔も。

『お前のせいだ』

「!?」

 守人は精神攻撃を停止した。フェルナンドの心から離れ同時に手を離す。

『ファースト!?』

 守人が手を離したことでフェルナンドは守人を引き剥がすなり投げ捨てた。

「があああ!」

 守人の体が地面に叩きつけられる。

 フェルナンドは両腕を振り回し地面から抜け出すと慌てて離れていった。安全な場所まで逃げると両手を地面につけ荒い息をしている。

「ハア……ハア……」

 まるで九死に一生を得たような逼迫した雰囲気だった。フェルナンドもそうとう追い込まれていた。

 だが危険だったのは守人も同じだ。

「はあ……はあ……」

 守人は片膝をついた状態で自身を落ち着かせている。表情には余裕はなく大きく見開かれた目が正面を向いている。

『ファースト大丈夫!?』

「はあ……はあ……」

 ヘルメットから麗華の声が聞こえる。けれど頭の中に入ってこない。それどころではなかった。

 声が、聞こえた。

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