SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

SCPゾンビ病戦 7

 そう、逃げられたが情報はある。守人が登場する前から部下には彼の写真を撮るように命令してあった。ここからなにか探れるかもしれない。

「指揮官!」

「なんだ?」

 大声で呼びながら別の部下が走ってきた。ずいぶん深刻な表情だ。

「見てください、やつの画像データなんですが」

「……なんだこれは」

 印刷してきた紙を受け取るなり隊長の顔が歪んだ。そこには道路の上に立つ人型のモヤが映っていた。

「確認したのですがすべての画像においてやつの姿だけが視認できないほどに不明瞭になっています」

「すべてだと?」

「はい。やつ以外の画像は正常に撮影できています。カメラのトラブルではありません。もとのデータから全部です」

 部下はスマートフォンの画面を見せてきた。そこには印刷した時と同じようにアンノウンの姿だけモザイクがかかっていた。色すら判別がつかない。

 これでは情報にならない。

「くそ! なら似顔絵師でも呼んでやつを描いてもらえ。腕利きのやつにな!」

 まさかの事態に指揮官は歯噛みした。これほどの技術がこの世に存在していたことに驚きとも悔しいとも言えない感情が沸いてくる。

 が、すぐさにゾンビなんてものがいるのを思い出しどうでもよくなってきた。

 そしてアンノウンの姿を思い出そうとしたところで思考が停滞した。

「……ん」

 苛立ちが消える。それどころではない異変に指揮官はあごに手を当てた。

 思い、出せない。

「指揮官。その、やつの外見なんですが、えっと、たとえばどういう特徴でしたっけ? いえ、すみません。なんか、急に思い出せなくなってきて」

 そばにいた隊員が聞いてくる。どうやら自分だけではないようだ。

「お前もか」

「え?」

「やつの姿を覚えているものを探せ! 全員に確認を取るんだ! 覚えている範囲でいい、すぐに絵なり文章に記すんだ。早くしろ!」

「了解です!」

 部下は走って確認を取りに行った。全員に聞き込みを行っているが首を縦に振る者はいない。みな一様に不思議がっている。

「……どういうことだ。いや」

 こんなことは初めてだ。今日は人生初のことが多すぎる。この世界で、いったい自分の知らないなにが行われているというのか。

 指揮官は視線を上げ、もう姿の見えなくなった空を見上げてみた。

「なんてやつなんだ」



 守人を乗せたヘリは訓練所へと着いた。下りると麗華が待っていたくれた。

「お疲れさま。怪我はない?」

「知ってるだろ」

「知ってるけど、あいさつみたいなものよ」

 藤森などほかの隊員もヘリから降り作戦室へと戻った。中はここを出て行った時と変わっていない。

 みな配置につき作業をしている。彼らが黙々とキーボードを叩く中ホワイトボードの前にいる牧野が声をかけてきた。

「ご苦労でしたね。見事作戦を完了してくれました。しかしまだ休息をとるわけにはいきません」

「分かっている」

 確認されているSCPは残り四体。そのどれもがまだ活動中。休んでいる間にも被害が拡大していく。

 ゆっくりとはしていられない。すぐにでも出撃だ。

「守人君……」

 麗華が守人の前に立った。守人を見上げていた彼女はいったん顔を下ろした。心配そうな表情をしているが、次顔を上げた時彼女は小さく笑った。

「頑張ってね」

 この状況ではどれだけ心配しても意味がない。休ませてあげたいのが本心だろうが今も苦しんでいる人たちを思えばそんなわがままは通せない。

 麗華は悩んでいる。その上で選んでくれた、戦う道を。その決断以外を状況が許してくれなかったとしても。

 その選択に応えるためにも。

「ああ」

 守人は力強く頷いた。今はまだ信用がない。自分なら大丈夫だという。

 なら次の作戦も無事終わらせよう。いつか彼女が迷いも苦しみもなく送り出せるように。

 守人はホワイトボードを見つめ、次の相手を選んだ。

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