SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

動き出した脅威2

『SCPを包囲している部隊だ、口は固いだろう。だが、存在を知られることは避けられない。軍部には他国にもG4がいることを知られ、対策も打たれるだろう。我々としては避けたい事態だ』

 自分たちの切り札を見せるようなものだ。実際G4は秘密兵器なのだから本来なら相手にみすみす見せるなどあり得ない。どの国が軍事費をバカ正直に公表するか。

『だが』

 しかし、ここで流れが変わった。機械を思わせる男の口から無難や定石とは間逆の言葉が出てくる。

『この事態を見過ごせばSCPの秘匿自体が困難になる他、被害の拡大は避けられない。犠牲者が大勢出るだろう』

 SCPの秘匿もイラク、シリアの被害も日本政府には関係ないことだ。ここで起きているあらゆる出来事は対岸の火事のはず。

 しかし、賢条に迷いはなく、損得勘定を無視して、その鋭い目は守人を捉えた。

「守人君。二言はないな?」

 如何に方向性を決めたところで戦うのは彼だ。彼が動かなければ始まらない。賢条からの確認に、守人は、

「当然だ」

 もちろん、首肯で答えた。

「決まりだ」

 方針は決まった。主役の意思も固まっている。

 あとは、やるだけだ。

『我々特戦はこれよりイラク、シリア内で活動しているSCPの討伐に移る。SCPの暴走はどの国や団体も好むものではないはず。表だって敵対してくることはないだろう。それよりもこれ以上の被害を防ぐ』

 日本政府が誇る特異戦力対策室室長、賢条幹久から指示が出る。それは今後の未来を左右するかもしれない戦争において、先ではなく今のために戦う戦いだった。

「分かった」

「了解です」

「やるしかないわね」

「これはとんでもないことになってきたな」

 守人が、牧野が、麗華が、獅子王が、今後の決定に心情を呟いた。SCPと戦う。ここに着いた時には考えもしなかった展開だ。

 それに自分たちの存在の露呈。それを引き替えにしてでも争いをなくす。そのために戦うこと。

 それを、全員がよしとしていた。むしろ歓迎している者たちさえもいた。罪のない人々が犠牲になっているのを見捨てるなんてことはできない。助けるために、瞳はやる気に燃えていた。

「それで、SCPの詳細は分かっているのか? 敵の正体は?」

 五体のSCPを確認したということは姿を見ているはず。敵の正体が分かっていれば戦い方も分かってくる。なにが起こるか分からない異能戦において情報のアドバンテージは大きい。

「それについても藤森率いる現地部隊から報告が上がっている」

 守人からの質問に牧野が視線を藤森に向ける。彼は大きく肩を持ち上げた。

「見た時は度肝抜かれたね、実際死ぬほど怖かったわ」

 そうは思えない飄然とした口調だが緊張感は伝わってくる。SCPを五体も視認したのだから実際生きた心地はしなかっただろう。

 相手の能力によっては近づいただけで死んでいたかもしれない。

「さっき説明にあったが現在確認されているのは五体のSCPだ。どれからいくか」

 それでも恐慌状態におちいることなく、こうして会話ができているのはさすが元Dクラス職員か。修羅場はくぐっているらしい。

「最も緊急性のあるものは?」

 守人の問いに藤森は「うーん」と声を出した。

「どれも緊急性を要するっていうと卑怯に聞こえるかもしれないが実際そうだ。それを踏まえた上でいうのなら、一番最初に対処しないといけないのは感染型SCPだろ」

「感染型がいるの?」

 藤森の報告に麗華が食いつく。SCPの暴走などどれも放ってはおけないがその中で感染型はまずい。

 早期に対処できなければ被害が広がり手に負えなくなる。最初の感染者が数人ならなんとかなるが、百人、千人に増えればもう止められない。

「厄介だな。場所は?」

 感染型がいると知って守人もそれに標的を定めた。一刻も早く倒さなければ。

 守人の質問に藤森が答えた。

「タドムル。遺跡の跡地がある観光地だ。普段は観光客で賑わってるが今は違う。死者のテーマパークさ」

「死者のテーマパークって、まさか……」

 守人にはピンとこなかったが麗華が察したのか危機感を露わにしている。それを見て藤森も頷いた。誰が聞いても危険だと分かるほどまずいSCPなのか。

「どっかのバカがあろうことか散布しやがった。ここのSCPは、008―ゾンビ病だ。まだ感染は小規模だが急いだ方がいい」

「最悪じゃない!」

 麗華が忌々しく吐き捨てる。その後守人を力強く見て叫んだ。 

「守人君、準備して! すぐに出撃よ!」 

 麗華が言うよりも早くにここにいる職員、隊員は出撃準備に動いていた。牧野はヘリの手配を命じ司令部の人間は情報収集をタドムルに集中させる。

「了解、いつでも行ける」

 そしてこの男も、戦場へと向かう覚悟を決めていた。

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