SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

動き出した脅威

 守人がISILの本部を襲撃してから五日後、緊急召集がかけられた。守人や麗華、獅子王、並びに他の隊員までもが会議室へと集まる。

 全員が険しい表情の中にわずかな困惑を浮かべていた。あの作戦以降ISILの行動は著しく低下し楽観する者もいたからだ。

 支配地域も大きく縮小した。だからこそ、連日続いたこのニュースは衝撃的だった。

 イラク、シリアの主要都市でISILによる連続テロ行為が発生。現在でも都市で戦闘状態、ないし潜伏しており急遽封鎖線が敷かれたのだ。

 敵が体制を立て直したのか? ならば新たな首謀者は? 本部は? そもそもほぼ同時に戦闘を行えるだけの戦力なんてどこにあったのか?

 そんな職員全員を牧野は見渡した。ホワイトボードの前に立ち鋭い眼光を覆うメガネの縁を持ち上げた。

「これより緊急会議を行います。現在報道されているISILによる連続テロ事件によって各都市内で封鎖線が敷かれています。首都バグダッドも同様でありバグダッド空港は運転見合わせを余儀なくされており各所で影響が出ています」

 牧野の説明を全員精悍な表情で聞いている。

「現在テロ行為が発生している地域はバグダッド、アレッポ、ラッカ、タドムル、モースルの五つの都市です。これらが現在一部、もしくは全域が立ち入り禁止となっています。が」

 そこで牧野は話を一旦切った。一拍の間、その間に皆の様子を伺うように鋭い目が部屋を走る。動揺している者は一人もいない。それをよしとして牧野は話を再開した。

「みなも感づいているように、これはISIL単独によるものではありません。部隊を現地に送り調査した結果、これらはすべてSCPによるものだと判明しました」

 牧野が発した一言に全員分かってはいたものの少なからず衝撃が走る。特異戦力。今まで裏側に潜んでいた怪物たちが公に現れたのだ。

 SCP。その言葉に守人は一層気が引き締まった。本拠地の地下で遭遇したので予想はしていたがまさかこうも大規模に活動するとは思っていなかった。

「各SCPは現在国連軍によって包囲していますが撃退には至っておらず、有効な手段を打てていないのが現状です。このままではSCPが包囲網を突破するのは時間の問題でしょう」

 これは大問題だ。SCPなんて摩訶不思議な存在、言ってしまえば幽霊みたいなものだ。それも人に敵意を持つ最大級の悪霊。軍隊といえど手に負えるものではない。

 なんとかして対処しなければならないが、そこで麗華が聞いた。

「そもそも、どうしてこんな事態に? 五体のSCPがほぼ同時じゃない」

 それは確かにその通り。SCPの発見例は本拠地の地下だけで他にはなかった。静観していたはずがなぜここにきて活動を開始したのか。

 だが、その答えを守人は薄々だが感じていた。

「それは、おそらく手綱がなくなったからだろう」

 そう言ったのは獅子王だった。険しい顔のまま説明を続ける。

「ここにいるSCPは財団がISILに提供、ないし貸し出していた可能性が高い。そのSCPたちをISILが統率していたわけだが」

 そこで獅子王が言いよどむ。守人の表情を伺い気まずそうに顔をしかめる。

「いいんだ獅子王、俺の責任だ」

 そう、この事態はまず間違いなく本拠地の崩壊が起因している。守人が本拠地を潰したせいでISILがSCPを制御することができなくなり暴走している。

 結果論だが守人が襲撃しなければこうはならなかったはずだ。

「そんな、守人君は悪くないわ! ただ命令にしたがっただけじゃない」

 麗華が守人に近づいてくる。必死な表情で声をかけてくれる彼女を、守人はそっと手で制した。

「分かってる。だが、人のせいにして済む問題じゃない」

 彼は真剣だった。自分のために言い寄ってくれた彼女の気持ちは嬉しい。けれどだからといってその言葉には甘えられない。

「責任は取るさ」

 彼は真面目だった。自分のとった行いを誤魔化そうなんてしない。言い訳もしない。自分が原因である以上、逃げようとは思わなかった。

「だがどうするんだ? 戦うのか?」

 そこで獅子王が聞いてくる。眉が寄りそれは別の険しさを表していた。

「私たちがここに来たのは彼の実戦テストが目的だ。その存在は当然極秘。隠れて戦う、見つかる前に撤退が当初の予定だったはず。だが、SCPと戦うとなれば」

 そう、ここに来たのはあくまで白河守人、G4の実戦テスト。それもG3を想定したものだ。G4級との戦闘は当初の予定にない。ましてや――

「知られるぞ、世界中にだ」

 SCPはすでに軍によって包囲されている。監視されているのだ。その真っ直中に行き戦闘を行えば知られてしまう。

 超常的な力を持つ人がいる。その事実を。

 その問題、自然とみなの視線が画面に映る賢条に向けられた。決めるのは特戦の室長、最高責任者の彼だ。

 みなの眼差しと答えを望む気持ちが向けられる。賢条は表情を一切変えることなく話し出した。

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