SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

SCPフェルナンド 2

 
 男はやれやれと任務を続ける。気が抜けすぎだ。いつ戦闘が始まってもおかしくないというのに。

 仲間の男はまだ言いたげそうな顔をしていたがこれ以上つき合っていられない。

「なあ、なあ」

「お前なあ」

 だというのにこいつはなぜこうもしつこいのか。いっそのこと撃ってやろうか。

「いい加減にしろよ任務中だぞ」

「いや、そうじゃなくてよ」

「ん?」

 が、どうにも様子がおかしかった。男は同僚を見る。その顔は自分を見ておらず道の正面を見つめていた。

「あれ!」

 男も振り向いた。自分たちの進行先、道路の真ん中に人影があった。

「おいおい、嘘だろ」

 その人物に唖然となった。

 道の真ん中に、タキシード姿の男が立っていた。それもでかい。背がでかい。体格がでかい。身長三メートルのボディビルダーかプロレスラーのような体つきだ。

 タキシードにあったシルクハットを被り顔は見えないが、その大男がこちらに向かって歩いてくる。

 車両が停止する。男も銃を構えた。まさかと思う。どちらにしろ敵であるかもしれないのだから警戒して当然だ。

「止まれ!」

 男は叫ぶが目の前の大男は止まらない。みるみると近づいてくる。

 撃つか? いいや、相手は武装していない。さらに現地人の可能性もある。攻撃も受けていない。これでは撃てない。 

「ここは戦闘地域だぞ、なにをしている、さっさと出て行け!」

 全員が緊張しながら銃口を向けていた。こんな大男を目にしても規則は忘れないのだから自分たちが軍人なのだと思い知らされる。

 男は兵士たちの前で立ち止まった。男は見上げる。間近でみるとその大きさに圧倒される。どれだけでかい?

 バスケットボールのネットくらいの高さはあるか? 銃座に立っている兵士も自分とほぼ同じ目線の高さにいる相手に内心恐怖を感じていた。

 声には出さなかったがここにいる全員が思っていた。

 こいつが、噂の戦場の大男? 兵士を襲ったという? 本当なら兵士を素手で皆殺しにするようなやつだ、どれだけ凶暴なのか。

 男の額から汗がこぼれる。

 そんな緊張に緊張が重なった雰囲気の中、男はシルクハットをわずかに持ち上げ、はじめて顔を男たちに向けた。

「はじめまして、兵士の皆々様。実は私困っておりまして、道を尋ねたいのですがよろしいでしょうか?」

 その顔は、穏やかな笑みを浮かべていた。

 年齢は四十代の男性くらいだろうか。顔は四角い形をしており黒い髪が見える。

 そのギャップ。いったいどんな怪物だろうと身構えていただけに拍子抜けだった。誰も彼の言葉に答えられず立ち尽くしている。というよりも反応に困る。どう対応すればいい?

 皆が固まっていた。そんな中大男は気さくな声で、さらに丁寧な言葉遣いで話していく。

「突然のことで戸惑っているようですね。申し訳ありません。私のような者が声をかければ驚いてしまっても仕方がありません。お気持ちお察しします。それを踏まえた上で教えてはいただけないでしょうか。なにぶんここへ来るにははじめてなものでして。お願いします」

 大男はシルクハットの上から頭をかき小さく頭を下げている。

 男は同僚と顔を見合わせた。お互いにどうする? と目で確認し合った。まさかこんな事態になるとは。

 とはいえ相手に敵意はなく用件も道を尋ねているだけだ。あれほどビビっていた同僚の男もそういうことならと銃を下げた。

「どこに行きたいか知らないが戦闘地域だ、すぐに離れろ」

「でしたらのどこに向かえばいいのか教えていただけないでしょうか?」

「……まったく」

 道を教えてさっさとここから立ち去ってもらわないといけない。

「分かった、案内してやる」

「はい。ありがとうございます。ですが、その前によろしいでしょうか」

 そう言うと大男は同僚の男に近づいてきた。なんだろうかとさらに見上げる。

「いえ、わたくし実は少々空腹でして」

 大男の巨大な手が同僚を捕まえる。手のひらだけで彼の胴体をすっぽり包んでいた。

「うわああああ!」

 悲鳴を上げる。必死に抜け出そうと体を動かすがびくともしない。大男は片手で人一人を持ち上げ――

「いただきます」

 彼の頭を、食べ始めた。

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