SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

SCPフェルナンド

 イラク国内にある都市を国連軍の哨戒兵たちが見回りに歩いていた。銃座を備えた車両が一台ゆっくりと進み、その周りにいる数人の歩兵たちも町の様子に目を配る。

 整備された道路は広くきれいな町をしていた。天候にも恵まれ青空の下では本来なら多くの車が行き交い人々で溢れていただろう。

 だがISILとの戦闘が激化するにしたがいこの町も戦闘地域に指定されてしまった。住民は退去、立ち入り禁止になりここにいるのは戦闘服を着込んだ人間たちだけだ。

 つい最近もここの近くで戦闘があり兵士たちの表情も険しい。

 その中である一人が戸惑いを見せながら聞いてきた。

「なあ、お前信じるか?」

「なにがだよ」

 近くにいる同じ隊員が応える。目は道や建物に向けながら話を聞いていた。

「知ってるだろ、ISILの本拠地が襲撃を受けたって話」

 もう一人の隊員は「その話かよ」とため息を吐いた。

「あのなあ、そんなことあるわけないだろ。さっさと帰国したいやつが夢でも見たんじゃないのか」

「いや、そうじゃないんだ。俺の知り合いに通訳できるやつがいるんだがそいつが聞いたっていうんだよ。敵が言ってたんだ」

「敵が?」

 男は胡乱な目で同僚を見つめる。戦場で肩を並べる仲だがなんだか不安になってくる。変な勘違いに踊らされるのは勝手だが今は止めて欲しい。

 勘違いの延長でフレンドリーファイヤはごめんだ。

「ならそいつが聞き間違えたんだろ」

「そんなことない! 敵が驚いていたっていうし、そいつだけじゃない。ジャックやピーター、他のやつだって言ってる!」

「はあ」

 男は今度こそ聞こえるほど大きなため息を吐いた。まさか戦場の妄言に踊らされる間抜けが隣だけでなくそんなにいるとは。

「そうかい、なら本当なんだろうな」

 男は面倒臭くなり適当に合わすことにした。あとはもう好きにしてくれ。

「なあなあ」

 すると仲間の男は距離を縮めてきた。

「どうやって襲撃したと思う?」

「はあ?」

 男は戦場の真っ直中で素っ頓狂な声を出した自分にも驚いたし、なにより食いついてきたこの男の知能にも驚いた。こいつはこの冷めた態度か分からないのか。

 男は建物の壁や木の影に敵がいないか探しつつ仲間の男を視界から追い出した。

「さあな、想像もつかないよ」

 男はそう言うがはっきり言ってどうでもいい。こんなのはただの現実逃避だ。

 だが仲間は乗り気で目を輝かせていた。

「俺が思うにどっかの空挺部隊だよ。奇襲をかけたんだ」

「そんな少数でどうにかなるわけないだろ。それなら空襲だ。その後で地上部隊が掃討したんだよ」

「そんな大規模な作戦あったか? それに空襲なんて聞いたことがないぞ」

「じゃあどうやったっていうんだよ」

 はやく終わって欲しい。そう思った時だった。仲間の男はさらに別の話を振ってきた。

「……これも噂なんだが」

 含みを持たせた言い方だった。ISIL本部の崩壊、これだけでも現実離れしている話だというのになお噂話とはいったいなんなのか。

 それで男はピンときた。これよりもあり得ない、それこそおとぎ話のような話を聞いたことがあるからだ。

「おい、まさか戦場の大男か? ゴリラよりもでかい男が素手で一個小隊皆殺しにしたって? 止めてくれよ馬鹿馬鹿しい」

 どこで聞いたかは忘れたがその噂話曰く、戦場で戦っているとタキシード姿の男が現れたそうだ。

 これだけでもかなり滑稽だが、さらにその男は三メートルはあろうかという巨体で兵士たちに襲いかかり、マイク・タイソンもびっくりなパンチで屍の山を築いたらしい。

 もし本当なら記念撮影をしてボクサーにスカウトだ。マネージャーになれればいい金になる。

「でもだぜ、これだけじゃないんだ。変な化け物を見たっていう噂がいくつもあるんだ。いくつもだぜ? こんなのおかしい。ここにはなにかある。もしかしたらそいつらが暴走して本拠地を潰したのかもしれない」

 男は一蹴するが仲間の男はそうではなかった。皆がそう言っているというだけの根拠のない妄想に囚われている。

「落ち着け。よくある話さ。戦場じゃ恐怖で幻覚を見るやつなんて珍しくない。コウモリだって悪魔に見える」

 が、そんなことがあるわけないのだ。怪物だ英雄だというのは神話や絵本の中だけで、ここにいるのは銃を持つ兵隊だ。

 そんなのは子供でも分かるはずだろうに。男は内心で三度目のため息を吐いた。

「幻覚? 大男が人を殴り殺すのをどう見間違えるっていうんだよ?」

「……いいから集中しろ」

 疲れる。

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