SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

SCPアベル 2

 二人に中年の男性は顔を振ったあと腕時計に目をおろす。その後みなを見つめた。

「みんな聞いてくれ」

 声をかけられアベルを除いた全員が顔を向ける。

「まもなく降下予定地点だ。作戦の内容を確認しておく。我々は現在ティグリス川を渡る橋に向かっている。目的は周辺に展開している国連軍への襲撃だ。撤退の合図が出るまで相手に攻撃を与える。しかし我々だけでは成功は難しいだろう。そのため彼に協力してもらう。まずは彼を投下、着陸地点を確保してもらう。手段は問わない。連中を皆殺しにしてくれ」

「俺好みだ」

「場所を確保した後我々も降下、展開し戦闘行動に入る。帰りは別のヘリが来るので場所の確保も頭に入れておくように。質問は?」

「敵の応援は?」

「敵の通信はすでに妨害が敷かれている。心配の必要はない。他には? ……よし。計画通りにいくぞ」

 作戦の確認が終わりみな最後の点検に入った。肩にぶら下げる銃器に不具合がないか確かめていく。

「もうすぐ予定ポイントだ」

 パイロットから声がかかった。窓から外を見てみれば町の様子が小さく見える。対空攻撃を避けるため高度はかなり高い。

 ハッチが開き同時にアベルも立ち上がった。大きい。百九十センチ近くあるだろうか。引き締まった肉体。太股の両側には拳銃が備わっていた。

 アベルは開かれたハッチの前に立つ。目の前にはどこまでも広がる青空と黄土色の大地。そこに並ぶ小粒に見える建物だ。

「アベル、頼んだぞ」

 彼の背中に中年の男性が声をかける。ハッチから拭く強風で話しづらい中、アベルはなお余裕な態度だった。

「心配すんな人間。お前こそ短い人生、せいぜい楽しむんだな」

 アベルが歩き出した。ハッチの外へ向かって足を動かす。その姿を全員が見つめていた。彼の行動がこの作戦の要だ。

 ここで失敗すれば作戦そのものが失敗する。それもあるが、彼らがアベルに注目するのは他に理由があった。

 これから彼は地上へ降りるわけだが、なんとパラシュートを身につけていなかった。あり得ない光景だ。

 これでは空挺降下ではなく投身自殺だ。だがそれを誰も止めようとしない。なにより本人が気にしていない。

「じゃ、行ってくるわ」

 そして、アベルは青空に飛び込んだ。

 落下する。体中が空気の壁を感じている。風を感じ、寒さを感じる。アベルは広げた両腕と両足を揃えさらに速度を増していった。

 勢いがみるみると加速していき地面が急速に近づいていく。

 地上と衝突する間際、アベルは体を回し両足を下にしモスクの天井へと突っ込んでいった。屋上を貫通し一階の天井をもぶち破り、建物は崩れ落ちていった。

 突如発生した轟音と衝撃に道路で警備に当たっていた兵士たちが慌てて振り返る。何事だと大声で叫び銃を構える。

 敵襲か? 砲撃? 不発弾? 憶測が飛び交いながら崩れた建物に人が集まっていく。

 その中の一人が入り口付近に近づいた時だった。コンクリート製の瓦礫が急に吹き飛び兵士に直撃したのだ。そのまま瓦礫に押しつぶされ兵士は道路に倒れる。

 これに兵士たちは騒然となった。そして瓦礫が飛んできた方へ銃口を向ける。

 そこから瓦礫を踏み抜く足音が聞こえてきた。

「いいねえ、すぐにでも遊べそうな感じじゃねえか」

 アベルは無傷で現れた。かすり傷すらない。それどころかこれから始まる戦闘に心踊らしていた。

 ここには二十人近い兵士で包囲されている。全員が彼に銃を向けている。その全員が戦慄していた。空から敵が降ってきて、無傷で立っているのだ。

 なんだこいつは? 人間なのか? 意味が分からない。目の前の敵に驚愕するよりもまず理解できない。

 さらにアベルも拳銃を抜いていたが、それを見た兵士からさらに混乱していく。

 それは、見たこともないほど巨大なものだった。銃身だけで六十センチはあるだろうか。銃というよりも鈍器に近い。

 そのあまりにも現実離れした絵面に驚きの声は消えていき、この場は静まりかえる。

 その中でただ一人、アベルだけが興奮の渦中にいた。

「さて、久々だ。楽しませてくれよ、人間どもが」

 瞬間、この場に銃声が鳴り響いた。それと同時に狂騒と悲鳴が混ざり合う。血しぶきが飛び死体が転がっていく。

 殺戮だ。あらゆる者が死んでいく。

 その中心で、男の笑い声が響いていた。

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