SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

SCPー871、景気のいいケーキと言ってな

 と、そこで獅子王が口を開いた。

「こんなSCPがある」

 獅子王はケーキを見つめていたが彼が話し出したことで守人と麗華は彼の顔を見た。

「SCPー871、景気のいいケーキと言ってな」

 そこで麗華が大きく頷いた。

「簡単に言ってしまえばこれは無限に増殖するケーキだ。食べても翌日になると元に戻っている。そして食べずに放っておくと倍々に増えていくというものだ。一見ケーキが食べ放題のいい話に聞こえるが、このケーキは二百三十七個あり、放っておくと三ヶ月弱で地上はケーキによって覆い尽くされてしまうという危険なSCPだ」

「なるほど」

 甘い話などない、ということかと守人は納得する。

「そのためSCPー871は厳重に収容され、Dクラスの職員を用い食べ続けさせている。世界を守るためにな」

「それで?」

 獅子王の言うSCPー871の脅威は分かった。だがそれがこの状況とどういう関係があるのか。

「この部屋では今まさに第三次世界大戦が起きようとしている」

「たしかに」

 麗華が頷く。

「世界的危機だ」

「そうか? いや、まあ、かもしれん」

 守人も渋々頷いた。

「それを回避するためには三人で協力して目の前のケーキを食べる必要があるのでは?」

 三人は今一度中央に置かれたケーキを見つめた。自分の皿に乗っている食べかけのケーキと、切り分けられた残りのホールケーキ。道は険しく、ゴールはまだまだ遠い。

 一歩が重かった。それを後押しするように獅子王が言う。

「きっちり三等分だ」

 辛いのは自分だけではない。ここにいる三人も同じなのだ。ワンルームに閉じこめられた世界を救うには三人の協力が必要不可欠。

「決まりだな」

 守人は腹を括った。挑むしかない。獅子王と守人の覚悟が決まったことで麗華もしぶしぶ賛成する。

 三人はフォークを持った。そして自分の分を黙って口へと運ぶ。舌の上に広がる強烈な甘みになんとも言えない表情になる。そうして三人は黙々と食事をしていった。

 だが、そこで守人が笑った。

「ふ、ふふ」

 気が触れたわけではない。守人が笑ったことで麗華も大笑した。獅子王もほくそ笑んでいる。

 みんな気づいていた。この苦境、この苦難が、それ以前にお祝いだということを。

「一つ言っていいか?」

「なによ」

 聞き返してくる麗華に、守人は大声で叫んだ。

「なんなんだこれは!?」

 いったいなにが起きているんだ、なぜこうなった。

 せっかくの祝宴だというのに雰囲気はまるでお通夜だ。そのギャップに三人はひとしきり笑った。

 それから三人は「まずい、まずい」と言いながら笑顔でケーキを食べていった。そしてすべての皿にケーキがなくなった時、三人の間に熱い友情が芽生えるのだった。

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