SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

お祝い3

「じゃあ、せっかくだし食べようか」

 麗華が自分の分をフォークですくう。それを見て守人と獅子王もフォークで自分の分を取る。

「いっただきまーす」

 麗華のかけ声とともに三人一緒にケーキを食べた。

 国際テロ組織本部襲撃の成功にしては控え目な祝宴ではあるが、そんな不満はここにいる者にはいなかった。無事に成功できた。生きて帰って来れた。

 こうして一緒にいられるというだけで、三人には満ち足りた時間だったから。

 三人だけの食事会は和やかで温かい雰囲気に包まれていた。

 だったのだが。

「ん」

「うえ」

「うを」

 三人からなにやら快くない声が漏れる。全員の表情が歪み、特に麗華は端正な顔の眉間にはげしいシワが寄っていた。

「なぁにこれ、まずくない?」

「これはすごい」

「たしかに、強烈だな」

 元凶である白い物体を睨みつける。他の二人もしかめ面だ。

 せっかく買ってきたケーキだったのだが、まず甘い。めちゃくちゃ甘い。日本のケーキにシロップでもかけたように甘い。なにより最悪なのがそこにまじって変な味がすることだ。

 苦いというかまずい。

 これには一気に食欲をなくし三人から笑顔が消える。特に期待していた麗華は愚痴りだす始末だ。

「げえー、なによ最悪。守人君、あと食べていいわよ」

「ええ……」

 迷惑である。

「言っておくが買ったのは麗華嬢だからな」

「検索したのはあんたでしょう!」

 なにやら雰囲気が危ない感じになっていく。もうさきほどまでの和気あいあいとした空気は消え荒立たしいものになっていた。

「それはあくまで店だろう、選んだのは君だ」

「どれ選んでも似たような味だったわよ!」

「そもそもなぜイチゴのケーキなんだ? イラクの菓子にはフティラト・ジャザル(クルミが入ったニンジンのケーキ)があるだろう、なぜ西洋菓子にこだわった?」

「女の子だもん」

「…………」

「…………」

「なによ文句あるわけ!?」

「守人君、君の姉だろう、なんとかしてくれ」

「笑えない冗談だな」

「ちょっと、ほんとにこれどうするの? 捨てるなんてお姉さん許さないからね」

「なぜ俺を見ながら言うんだ」 

「捨てる手段が封じられているなら責任の所在を追及しその者が責任を取る。これしかないだろう。そして私が思うに責任者とは所有者だ。ということはこれを選び、購入した者。よって君だ」

「待ってよ! 責任ってようは原因を生んだ人のことじゃないの?」

「原因って?」

「君のことよ」

「は?」

「君が活躍したからこんなことになってるんでしょ」

「は!?」

 理不尽すぎる。

「これは君のために買ってきたんだから君が食べるべきよ」

「私は今すごいものを見た、感動すらした」

「待ってくれよ!」

 そこで守人は立ち上がった。自分は今あり得ないほどの暴力に晒されている。

「俺だっていらないよこんな甘いだけの固まり。この部屋になにしに来たんだよ」

 すると麗華と獅子王は互いの顔を見合い守人に振り向いた。

「お祝い」

「嫌がらせだろう!」

 気持ちはうれしいがまずいものを食べさせられるのはうれしくない。

 守人は座り込んだ。ケーキの味についてはもう仕方がない。イラク人と日本人では味覚が違うのだ。これはイラクの人を責められない。

 三人は輪になるように座り中央にあるケーキを見つめる。扱いに困った遺品のようだ。食べるのは嫌だし捨てるのも勿体ない。どうしようもない状況に時間だけが過ぎていく。

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