SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

お祝い

 牧野と話をしてから守人は自室へと戻っていた。締め切った部屋の中一人ベッドに座り込む。そのままずっとこうだった。部屋の光は点いているものの雰囲気はどこか暗い。

 というのも、守人は本拠地の地下のことを考えていた。

 賢条が言っていた言葉が重くのし掛かる。人間の残酷さ、執念が生み出す闇の部分。それを覚悟しておけと言われた。今ではそのことがよく分かる。

 同じ人間を、あんな風に扱える者がいるか? そんなことがあっていいのか? それを誰も知らない。

 世界の裏側で今起きていることなのに、それを知らずに生きている。

 許せるものではない。これからさらにどれだけの犠牲を出す気なのか。

 彼らは言ってしまえば自業自得だ。自分から危険を承知でここへ来た者たちだ。

 だけれど、中にはなんの罪のない者もいたはず。

 誰からも愛され、幸せになるべき人だっていたはずなのに。

 守人は静かに額に手を当てた。

 今更どれだけもがいても取り戻せないのは分かってる。埋め合わせがきくような溝ではない。

 だけど現実を知った。今を生きて、真実を見た。

 自分に出来るのは戦うことだけだ。それで悲劇を断ち切る。すべてを救えなくても、一人でも多くを守れるように。

 もう、彼女のような犠牲は出してはならない。

 守人は額から手を下げた。

 戦うしかない。これ以上の犠牲を出さないためにも。

 守人は静かにこれからの戦いに思いをたぎらせていた。

 そこへ扉がノックされる音が響いた。守人は立ち上がり扉を開ける。

 と、

「おめでとーう!」

「な」

 そこには麗華と獅子王が立っていた。麗華に至ってはクラッカーを使いパン! と音を鳴らしている。

「えっと」

 急展開についていけず守人は棒立ちだ。

「ちょっとなによその表情は」

「いや、これは」

「もう、なに言ってるのよ守人君。いや、私の弟はこんな感じか」

 麗華はおもむろにやれやれと顔を振る。そうしたいのはむしろ自分の方なのだが。

「まあまあそう言わず。彼も気を張っているんだ、当然だろう。でもだ守人君、君の気持ちも分かるが、どうだい? 戦士とはいえ気分転換は必要だ。メリハリは重要だぞ?」

 そう言うと獅子王は両手に持っていた箱を小さく持ち上げた。

「それは?」

「開けてからのおたのしみさ」

 獅子王が小さく笑う。

 こうまでしてくれればどれだけ鈍感な人でも分かる。二人は作戦を成功させた守人のお祝いに来てくれたのだ。

 その気持ちはうれしい。しかしまだ戦いは終わってはいない。あれだけの犠牲を見て祝いという気分にはなれなかった。

「その、俺はべつに――」

「討ち入りじゃあー!」

「ちょ」

 が、強引にも麗華が部屋に入ってくる。止める暇もない素晴らしい不意打ちだった。

「ちょっと待ってくれ、俺はべつに」

 麗華は守人の部屋を見渡しながら中央で立ち止まる。そのまま振り返ることなく背中越しに話しかけてきた。 

「守人君」

 声はさきほどの明るさとは打って変わり固い。

「君がなにを考えているのか、私には分かるよ?」

 そう言って彼女は振り返った。表情は微笑んでいる。けれどどこか寂しそうな、そんな雰囲気だ。

「でもね、認めてあげて。自分が行ってきたことを」

 彼女が守人に近づいてくる。そして彼女の細い手が守人の胸板を触った。小さいけれど彼女の暖かさが伝わってくる。

「俺は」

 本拠地を潰したはしたものの、まだ戦いは終わっていない。守人は迷いながらそれだけを口にする。

 そんな守人に麗華はニコっと笑った。

「君は、すごいことをしたんだよ? なのに君自身がそれを一番認めていない。だからお姉さんがこうしてお祝いに来たのです」

 守人の迷いを吹き飛ばすようにわざと茶化す。両腕まで組んで鼻を高くしていた。

「ワシもいるぞ」

「おまけもね」

「おまけって……」

 麗華にあしらわれ獅子王がショボンとしている。

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