SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

動機

「もしかしたら今回の作戦が決定打になりこの戦いも終わりになるのでは、そう考えていた時もありました。それはあなたも同じでしょう。ですが、事情が変わりました。むしろさらに激化する可能性まであります」

 鬼が出るか蛇が出るか、そうした作戦だったわけだが、それで出てきたのが人体実験にSCP。戦車が霞むほどの衝撃だ。

「それで質問があります、白河守人」

 牧野が守人を見る。改まった質問に守人も彼女の顔を見た。

 牧野は真剣な表情をしており、まっすぐな目で聞いてきた。

「あなたは落胆や失望をしていませんか? 終わるはずの戦いがまだ続くこと。それに精神的なショックを受けていないか危惧しています」

 真剣な問いだった。それに彼女の心配も珍しい。ふと思い返してみても思い当たらない。

 守人は砕けた態度で聞き返した。

「あんたが俺の心配か? 裏があるんじゃないかと危惧するね」

「仕事ですので」

「なるほど」

 が、返事に納得したあと閉口する。

 牧野は会話に一拍の間を置いたあと、おもむろに話し出した。

「私の家は昔から国防に仕える家系でした。京に鬼が出たと聞けば京に行き、山に大蛇が出たと聞けば山へ駆けました」

「そして今回は東アジアか」

「私は生まれた時から生き方が決まっていました。国を守るため、術を修め敵と戦うこと。そう教えられてきましたし、そう育てられました。まるで戦うことを目的として作られる、第四世代兵器のように」

 第四世代兵器。その言葉を聞いた時守人は意識がスーと冷えていくのを感じた。それは、決して笑えるものではなかったからだ。

「ですが、あなたは違います」

「俺が?」

 守人は第四世代兵器だ。少なくともそうして運用されている。それを否定され聞き返す。

「あなたはもともとは一般の者です。戦争どころか戦いとはかけ離れた人間でした。価値観も心構えも我々とは違います。そんな人間が戦場に立てば逃げたくもなります。たとえ状況がそれを許さなくても感情は別でしょう」

 そういうことか。違うというのはラベルの話ではなく本人の内面のことだ。牧野は生まれた時から生き方が決まっていた。兵器も作られる時から目的が定められている。

 しかし守人は違う。彼は普通の人間だ。特殊な環境だったとしてもそれは人間の生き方だった。

 そんな彼が、ある日を境に特別な力を手に入れた。これからの困難と戦い、そんな覚悟もないままに。

 逃げたくなるのは当然。だからこそ牧野は聞いてくる。彼の本音を知るために。

「それでもう一度聞きます。白河守人。あなたは落ち込んでいませんか? まだ戦えると言えますか?」

 それは当たり前の心配だった。誰だって思う。だってそうだろう、いったいどこの誰が好き好んで戦場に立つ? 

 命をかけて戦い続ける? その戦いが終わると思ったのに、まだ続くと知ったら?

 戦意を喪失しても当然だ。気落ちしても不思議じゃない。

「牧野」

 それに、彼は答えた。

「心配しなくていい、俺は戦うさ」

 強い声で。覚悟のある瞳で。守人の戦意に陰りはない。

「この目で見たんだ。大勢の人間が、ゴミのように捨てられているのをな」

 彼の胸に宿る炎は今も静かに燃えている。

 地下で見た光景が守人の脳裏に訴えかけるように蘇る。死体の山が。人間の残骸が。守人の心に圧しかかる。

「彼らも同じだ、俺と同じなんだ。自業自得だとしても。俺も彼らと同じように死んでいたかもしれない」

 彼らも自分と同じG4の実験体。あの凄惨極まる死体の中に自分がいてもおかしくはない。あの一人一人がまるで自分のようだ。

 彼らは利用された。そして打ち捨てられていたんだ、用済みだとして。

 これが、人として許せるか。

「特異戦力対策室、牧野。俺はお前たちを許さない。だが、それ以上に俺を許せない」

 多くの犠牲の上に自分は生きている。そのことを自覚している。その犠牲を無駄にしないためにも。

 守人の決意は変わらない。

「戦うさ。敵が俺と同じだというのなら、なおさらだ」

 守人はそれだけ言うと話を切り上げた。

「話は以上か?」

「はい」

「なら出るぞ」

 話はこれで終わり。守人は扉に近づきドアノブに手を置いた。

「守人」

「ん?」

 そこで声を掛けられ半面だけ牧野に向ける。

 牧野は正面を守人に向けながら、最後の問いを聞いてきた。

「あなたは、なぜ戦うのですか?」

「…………」

 守人は顔をドアに向ける。そして、そのまま扉を開け出ていった。

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