SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

財団の変換

 執務室のような部屋に守人と牧野はいた。ここには彼と彼女の二人しかいない。

 牧野は自身の机の側に回るが椅子には座ろうとせず備え付けの小さな冷蔵庫から水を取り出してくれた。ペットボトルのそれを渡してくる。

「どうぞ」

「ありがとな」

 戦闘してから口に入れるのはこれが初めてだ。守人はゴクゴクと一気に半分ちかくの量を飲み口から離した。その後深く息を吸う。

「さきほども言いましたが本任務ではお疲れさまでした。怪我や不調はありませんか?」

「問題ない」

 キャップを閉めペットボトルを机の上に置く。そのあとまっすぐと牧野を見た。

「あなたの記録映像は現在でも分析が進んでいますが、残念ながらISILと各国との繋がりを示す確固たる証拠は今のところ見つかってはいません。ただし現場にSCPがあったことは確かであり、財団となにかしらの繋がりがあることは間違いないでしょう」

 地下に隠された研究所。そこで行われていた人体実験と使用されていたSCP。その衝撃は今でも覚えている。

 表情に陰が差すが守人は気丈にも牧野に向き直った。

「財団が第三者にSCPを奪取された可能性は? それがISILに渡されたとか」

「その可能性を否定することは出来ませんが……」

 地下にSCPがあったのは確かだが財団が譲歩したとは決まっていない。もしかしたら別の組織が渡したのかもしれない。

 そもそも財団はSCPの収容を目的とした組織だ。ISILだろうがどこであろうとも第三者に渡すとは思えない。

 それで守人は聞くが、牧野は引き締まった表情をさらに難しくして目線を下げ、机の引き出しを開けた。

「実は、昨今SCP財団について、その動きに変化が見られます」

「?」

 そこからA4ほどの茶封筒を取り出した。

「あなたが財団と聞いてもあまりピンと来ないかもしれませんが、もともと財団は超然的現象を扱う世界的、かつ代表的な組織でもありました。彼らは確保、収容、保護を目的とした活動を続けています。が」

「最近では違うと?」

 守人の問いに牧野は頷いた。

「ある噂が流れています。彼らが行動理念を変換したと。それが、選別、研究、利用です」

 選別、研究、利用。ずいぶん大胆な方向転換だ。以前の方針が保護を主目的としたのが今回のはまるで逆。

 むしろ積極的にSCPを扱おうとしている。

「以前からそうした側面はありましたが、あくまで安全性を検証するための一環、というものでした。ですが、今では彼らがSCPの収容や保護を越えた行動が目立ってきています。これを」

 牧野は茶封筒の封を開けるとそこから何枚もの写真を取り出した。それらを机に並べる。その中の一枚を指さした。

「左の男が米国の政府関係者。右の者が財団の人間です」

「接触していると?」

 続いて別の写真を守人の前に移動させる。

「こちらはドイツの軍関係者と財団の人間が密会している写真です」

 守人は写真を持ち顔の前に持ってくる。そこには豪奢なホテルの入り口から出てくる二人のスーツ姿の男性が映っている。

 ホテルの中でなにかしらの話し合いが行われたのだろう。

「米国もドイツもG4開発に積極的な国です。SCPの情報は喉から手が出るほど欲しいでしょう」

 なるほどと胸中で納得する。SCPの研究資料はたしかに貴重だ。

「財団が密売人の真似事を始めたというわけか?」

「いえ、根はもっと深いでしょう。財団が資金調達に苦戦しているという話はありませんし。別の理由がありそうです」

 守人はもう一度写真に視線を戻す。男たちの表情を注視する。一人の男は笑っているように見えるが、片や別の男は厳しい表情をしている。いったいどんな話し合いをしたのか。

「そして、今回の件」

 そう言われ守人は顔を上げた。

「ISILという国際テロ組織。この騒動の裏で、財団、また主要国家のいくつかが関係している可能性は高いでしょう」

 今回の戦い。その敵はISILだった。だが真の敵は違う。その奥深くに黒幕がいる。

「戦いは、まだ終わっていません」

「……みたいだな」

 守人は写真を机に置いた。牧野は写真を封筒にしまい引き出しに入れた。

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