SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

会話

 守人が牧野と二人きりで話をしている間、麗華と獅子王は一階フロアで守人が戻ってくるのを待っていた。

 なにも知らない現地の人たちが何食わぬ顔で行き来している中、二人の顔は重い。

「しかしなあ」

 そこで麗華が口を開いた。獅子王が「ん?」と振り向く。

「守人君は作戦を成功させた。それも歴史的なことをね」

「ビン・ラディン殺害がニュースに流れるんだからそうだな」

「でもそんなのが霞んじゃうわよね」

 麗華は天井を見上げた。

 守人が行ったこと。それは本来なら世界的に報道されるほどすさまじいことだ。多くの国家を脅かしている国際テロ組織ISILの本部が襲撃を受け崩壊したのだ。

 それもたった一人の人間によって。

 しかしそれは闇の中。しかも明らかなになった真実の側面に特戦内ですら守人の偉業を褒める者はいない。

「はああ」

 麗華は大きなため息を吐いた。

「まあ、気持ちは分かるよ」

 彼の行いには見返りと呼べるものが少なすぎる。本人がどう思っているかは別として麗華は納得できない。

 事態がそれを許さないのは分かっている。ISILに財団、それだけでなく世界の主要国家すらも関与している可能性が出てきたのだ。祝いどころではない。それは分かる。

 けれど納得できるかどうかは別の問題だ。

「でもさ、彼が行ったことは変わらないわけじゃない。だって誰が出来る? たった一人でよ? この成功を誰も知らない。誰も認めてあげないなんて……」

 目が悲しそうに細まる。彼の苦労や痛みを知っている。だからこそ思ってしまう。

「彼は、命をかけて戦ったっていうのに……」

 命を削って、人生を捨てて彼は戦った。なのに誰も彼を認めない。その戦果を称えない。

 あんまりだ。それを仕方が無いと分かってはいても、彼女の心は現実に反発心を抱いていた。

「それを寂しいと思うかね?」

 そこで獅子王が聞いてきた。普段と変わらぬ口調で。麗華の心情を確認していく。

「当然でしょ」

「なら形に表すしかあるまい」

 その言葉に、麗華はようやく獅子王の顔を見た。

 獅子王は続ける。

「私は目に見えるものしか信じない主義でね。百の言葉で言い繕うよりも一つの行動だろう。むしろ行動しないならしょせんその程度ということだ」

(行動……)

 彼の言葉に麗華は黙り込む。何度も胸の内で反芻しかみしめると飲み込んだ。

「なるほど」

 確かに。彼の言うとおりだ。言葉でグチグチ言っていてもそれこそ仕方が無い。行動しなければそんなもの思っていないのも同然だ。

 それこそ仕事に追われて守人のことを放っている職員と同じ。

「宗作」

「ん?」

 麗華は獅子王を見る。その顔は不敵に笑っていた。

「感謝する。ありがと」

「ふ、別に私はなにもしてないよ」

 そう言うと獅子王は麗華から離れていった。片手を振り去って行く。

「それじゃ、私はこれで」

「なに言ってんの、あんたにも手伝ってもらうわよ」

 が、そこで足が止まった。「え?」という表情で振り返る。

 そんな彼を麗華は自信満々の態度で見つめ返していた。

「あんたが言い出しっぺなんだから当然でしょ。彼の功績を知ってるのは私たちだけなんだから。それともなに、おめでとうって言ったのはその程度の気持ちだったわけ?」

 そう言われたらなにも言えない。獅子王は唖然とするだけだ。

 そんな彼を尻目に麗華はやる気に燃えている。そう、行動だ。情熱を行動力に変え、彼女は拳を胸の前に握りしめた。

「さて、それじゃいくわよ。私の本気を見せてやる!」

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