SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

ISIS本部襲撃4

 G4は世界各国の兵器だ。汎用的超人化。それを作るためには必然的に人体実験を行っていくことになる。

 だがそれを国内で行うにはリスクが大きい。場所や人材、なにより検体を用意するのが困難であり、もしこのようなことが露呈でもすれば世論からの非難は必至。

 よって、人体実験は外注が望ましい。秘密が守られ、検体を簡単に用意でき、かつバレてももみ消せるような場所。

 そんな国があるだろうか? ないなら作ればいい。

 ここで行われていた実験の数々。それを巡って話し合われる二人の会話に守人は賢条との話を思い出していた。

 なぜISILが誕生したのか。どうしてここまで発展できたのか。

 もしそれを後押ししている黒幕があるとすれば。その見返りとはなにか。

 こうして堂々と、人体実験が出来ることだ。国内ではまずできないが、国境の向こう側なら違法にはならない。

 これが、世界の裏側で行われていた闇だというのか。

『ファースト、ここの情報を調べて。どうやらとんでもない尾を掴んだかもしれないわよ』

「みたいだな」

 見ればまだ奥には道がある。守人はさらに情報を得るために走り出した。

 その時だった。扉の向こう側から声が聞こえてきた。

「ガガ……ガガガ…………」

 それだけでなく重い足音も聞こえる。さらにはカチカチと硬いものがぶつかり合うような音まで聞こえてきた。

『なんの音? ファースト、警戒して』

 麗華からも緊張した声が聞こえてくる。守人も意識を集中した。

 足音がみるみると近づいてくる。そして扉が勢いよく破られその正体が現れた。

 それは、かにの体を移植された男だった。顔の右半分は甲殻類の顔となり右腕はすべてがかにの腕と爪に換えられている。

 上半身はすべて甲羅だった。頭が半分かにとなっているからか脳も正常に機能していないのだろう。

 立ち姿は夢遊病のようにふらふらとしており、なにより爪の大きさが異常だった。

 ハサミの部分だけでも一メートル近くありさきほどからカチカチとハサミをカスタネットのように鳴らしている。

 大きな爪のせいで重心が右にずれており男は傾きながら立っている。

 そのでたらめさ。まるでできのわるい人形のような醜悪さであり、人間をここまで弄ぶそのあり方がおぞましい。

『ひどい……』

 麗華の声を聞きながら守人も胸中でいい知れない怒りを感じていた。

 目の前の男がなにをしてきたかは知らない。もしかしたらISILの一員として罪のない者を殺したりこれから悪事をしたかもしれない。

 そうじゃなかったかもしれない。それは分からない。ただ、彼をこんな姿に変えていいのか? 

 いったいなんの権利があって人の命を弄べるのか。まるでおもちゃかなにかのように。

 守人の胸が、熱くなっていく。

『ファースト』

 そこで麗華が話しかけてきた。

『彼は、もう手遅れよ』

 ここまで体を変えられては手の施しようがない。いったいどんな構造で生きているのかも分からない。

 分かるのは彼が実験体にされたこと。

 人の尊厳が踏みにじられたことだ。

『終わらせて』

「了解」 

 守人は応じた。彼の人生を終わらせる。そうでなければ彼の悪夢は終わらない。

 泳いでいた彼の目線が守人を捉える。目が合った。

「ガガ、アア」

 男の体が震え出す。声が大きくなっていった。様子がおかしい。

 次の瞬間、男のハサミが守人につかみかかってきた。

 守人は急いで伏せ回避する。頭上を通過していくハサミは背後にあった薬品が並んでいる棚を掴み一瞬で切断した。

 守人は床を転び距離を離してから体勢を整える。

『あのハサミに気をつけて! 見た目通り強力よ』

 分かりやすい武器だ。単純だがそれゆえに強力だ。

 男は爪で挟むのではなく振り回してきた。台をなぎ倒し置いてあった遺体が浮かぶ。守人は隙間をかいくぐり男の横を通った。そのまま背後に回り込む。

 だが男の反応も速かった。振り返り背後にいる守人にハサミを広げ突き出す。まるで巨大なアギトだ。

 その攻撃を体をひねってすれすれでかわし、守人は男の胴部に拳を打ち付けた。

「ぬ」

 が、その手応えに驚愕する。

 硬い。戦車を殴ったことがある守人だからこそ分かる。この硬度、戦車と同じかそれ以上だ。

 守人に殴られてもなお男に怯む様子は見られない。それどころか人間の左手で守人をつかみかにのハサミで挟もうとしてきた。

 逃げられない。守人は迫り来る爪を両手で掴んだ。

『ファースト!』

 強靱な力で締め上げられる。ハサミは守人の首を絶とうと力を増していく。まずい。このままでは本当に首を絶ちきられてしまう。

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