SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

姉弟

 守人は自分の部屋にいた。時刻は夜になりあとはもう就寝するだけだ。明日のこともある。今日は早めに寝た方がいい。

 そう思いベッドに横になろうとした時だった。

 コンコンと扉が叩かれる。守人はある程度誰だが予想しながら扉を開けた。

 そこには案の定麗華が立っていた。ベージュ色のパジャマ姿なところから彼女も寝るところだったみたいだ。

「来ちゃった」

 そう言いながら麗華は小さく笑った。

「そうか」

 守人は扉をさらに開け麗華を通す。来てしまったものは仕方がない。

 麗華はベッドに腰掛け守人も隣に座った。

 麗華は背中の後ろに両手を置き胸を突き出す姿勢で上を向いていた。その顔が守人に振り向く。

「今日はすごかったね、おめでとう」

「姉さんこそ。戦闘中は本当に助かったよ。姉さんのおかげだ」

「ううん。実際に戦ったのは君なんだもの。君の功績だよ。もっと誇りに思いなさい。君はすごいことをしたんだよ?」

 麗華が一歩近づいてくる。顔を寄せ守人をのぞく。

 それに対し守人は苦笑するだけだ。自分は大勢の人に支えられてあの場所で戦った。あの勝利は自分だけのものではない。

 エフェクトスーツを開発した獅子王や的確な指示を出してくれた麗華。その他にもこの作戦に携わった多くの者たち。彼らがいなければ自分が勝てた保証はない。

「もう。守人君はもっと自分のことを認めてあげるべきよ」

「実際に自分が戦い勝利したという事実は認識しているよ。ただ、その自分の力、というのに自分以外の手助けがあったことも事実ってだけで」

 麗華は戦った本人である守人を褒めてはくれるが守人自身はそこまで熱心にはなれなかった。自分の勝利に違いないが、自分だけの勝利ではないのだから。

「それに、今は」

 守人の表情に陰が指す。それで麗華も沈んだ顔になった。

「……うん。それどころじゃないか」

 一難去ってまた一難、とはまた違うが、まさかこのような事態になるとは思ってもみなかった。ISILという存在だけでも頭が痛いというのに他国のG4までとは。

「はあ、ああ~」

「?」

 麗華が盛大にため息を吐いた。背中を大きく反って長い髪がベッドに着く。

「本当なら今頃、初戦のお祝いにこう、景気よくシャンパンをポンポン開けてるはずなのになぁ~」

「そうなのか?」

「そんなわけないじゃん!」

 と、今度はガバッと上体を起こす。なにかと忙しい性格なのは異国の地でも相変わらずのようだ。

「でも、気持ちだけでもさ。もっと愉快なムードでもいいはずじゃん。だっていうのに、開けてみればこんなことになるなんて」

 姉としては残念なのだろう。とほほと疲れた顔をしている。弟がせっかく勝って帰ってきたというのに戦勝ムードどころか周りは新たな脅威にひっぱりだこなのだから仕方がない。

「でも、これが終わったらちゃんとしたお祝いをしないとね」

「そうだな」

 お祝い。それがいつになるか分からないがいつかしたいと思う。この戦いを生き抜き、みな無事で日本に帰る。それが成った時、それは叶うだろう。

 それは祝う価値がある。そうしたいと守人は素直に思った。

「そのためにも、明日はなんとしても成功させないと」

 そのための足がかりが明日の作戦で行われる。ISILへの直接攻撃。激しい抵抗が予想される。一人で行うなど本来なら自殺行為だ。守人がG4であることを鑑みても油断はできない。

 だからこそ守人は気合いを入れた。今日の勝利はすでに過去のこと。明日生き残るために油断は無用だ。

「成功するよ」

 そんな守人に、麗華は力強い声でそう言ってきた。

「私が君をサポートする。君を、ぜったいに死なせない。なにがあっても」

「姉さん……」

 守人を見る彼女の目はまっすぐだった。その瞳に引きつけられるように守人も見つめる。

「残念だけど、君の隣に私はいられない。この戦争に聖法教会は参戦できない。でもね、これだけは覚えておいて。離れていても私は君のそばにいる」

 彼女の言葉を守人は黙ってきいていた。彼女は戦場にはいない。ここから守人のヘルメットが映す光景を見ているに過ぎない。

 けれど彼女はその状況に決して安堵しない。大切な人が戦っているのに安心するような女性ではない。

 むしろ、自分も戦えないことにその胸は締め付けられているようだった。

「君は、一人じゃないよ」

 彼女の言葉を、そこにある思いを受け取る。彼女だって本当は戦いたい。それを我慢して見守ることしかできないもどかしさ。

 ちゃんと伝わっている。自分は死ぬわけにはいかない。この人をこれ以上悲しませていいわけがない。

 だからこそ、 

「もちろんだ」

 明日の作戦を、成功させなくてはならない。

 ISIL本拠地へ、襲撃だ。

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