SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

脅威3

 それは賢条の声だった。しかし賢条は同乗していない。ここにはいないはず。

 牧野はテーブルに近づくと反対を向いていたノートパソコンを反転させる。

 そこには、室長室の机に座った賢条が映し出されていた。

『話はさきほど牧野から聞いた』

「それで、知っているのか?」

 画面に映し出される賢条の様子は焦っているようには見えない。まるでこうなることを知っていたかのようだ。

『いや、彼らの存在は私も今し方知ったところだ。だが想定はしていた。まさか早々に、こうした形で遭遇するとは思わなかったがね。それも戦闘とは』

 賢条は不明敵性体のことを落ち着きながら話していく。そこには余裕すら感じられる。

 守人は黙って聞いていたが賢条という男を改めて底の知れない男だと思った。ISILという存在は国際社会に置いて大きな脅威だ。

 それを前に戦うとなればそこに意識のすべてが集中するもの。だがこの男はそれだけでなく別の脅威も考えていたのか。

『別段不思議なことではないさ。私たちがいるんだ、他がいてもおかしくはない』

 確かにそう言えばその通りだ。だがそう簡単に意識が向くものでもない。

 第四世代兵器。それは世界各国の課題だとされてきた。しかし現時点で完成させた国はなく製造困難が現状だったはず。

 だった。

 その中で白河守人という彼を作り上げた日本は頭一つ抜けた位置にいると知らず思い上がっていたのかもしれない。

 日本だけではないのだ、G4を、実用段階にまでもってきていた国は。

『さきほど遭遇した敵についてだが、事前情報と参照すればおおよその所属は判明できる』


「なに?」
「ちょっと、どこよそこ!?」

 賢条の意外過ぎる一言に守人となにより麗華が大きな声で聞き返す。相手の正体。すぐに知りたいと麗華がパソコンに近づいた。

『コウモリへの変身能力、また日光を避けるかのうな全身を覆う服装』

「それって」

 そこで麗華も察する。そういうことかと苦い顔を浮かべた。

 コウモリだけならまだ判然としなかったが、あの服装を日光を避けると捉えるなら正体は明らかだ。その伝説と特徴は有名過ぎる。

『かつてEUがベラド・ツェペシュの血痕を採取したという情報を得てはいたが。すでにここまで出来上がっていたとはな』

「あれがEUのG4」

 人工的に特異性のある物体を作り出すこと自体はこの業界では珍しいことではない。

 異常なアンドロイドや人工知能、おもちゃの形式を取った医療器具など、要注意団体のいくつかにはそうした特徴を持つ組織がある。

 そうした中でドラキュラの原型、ベラド・ツェペシュの血痕ならば資質は最高クラスだ。どんな超人が作られても不思議ではない。

「なるほど。その線で教会も調べてみるわ。もし本当なら私たちの仕事でもあるし」

「姉さん?」

 守人は振り返る。そこにはいつになく真剣な彼女の顔があった。久しく見ていない、それは仕事の顔だった。

「忘れてるかもしれないけど、私は君の監視役の前に聖法教会の人間なんだから。異能者、異生物、聖遺物の管理、討伐は我々の役目よ。ヴァンパイアなんて放っておけるわけないわ。あるべき形に戻す。それが教会の方針よ」

 彼女は本来の立場から話す。特戦としてではない、教会の人間として特異戦力を捉えていた。

「いいわね、特異戦力対策室?」

『それに関して止める権限を我々は持たない。が、邪魔は止めてもらおうか、聖法教会』

「ふん。こっちの台詞よ」

 麗華の確認に賢条が答える。情報は特戦も知りたいところだ。それをしてくれるというのであれば止める理由もない。

 邪魔にさえならなければ相手をどうしようが知ったことではなかった。

「それで、これからどうするんだ?」

 守人はパソコンに向かい尋ねた。教会の動向は分かったが問題はこれからだ。自分たちがどうするのか、それがまだ決まっていない。

「まだ確定したわけではないが、あのEUのG4は対戦相手と言っていた」

「そうよ。対戦相手っていったいなんのこと? EUは自分たちでG4を戦い合わせるつもりなの?」

 それは守人も気になっていた。あの敵は自分との遭遇に一切驚いていなかった。むしろ嬉々としている節すらあった。

 あの敵にとって異能を持つ敵との遭遇は当然のものだった。そうした計画があったことになる。

 それがますます不気味だった。G4の登場。それだけでなく、他になにをしようとしているのか。

『ならまだいいがな』

「?」

 賢条の言葉に麗華の眉が曲がる。

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