SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

アンノウン3

「くそ!」

 逃がした。火力こそないものの相手の変身能力は厄介だ。奇襲や回避に優れている。

 敵は再び人の姿に戻り守人の前に立つ。廃墟とかしたこの場に風が吹き、外套の裾を靡かせている。

「惜しかったな乱入者。だがそんな単調な攻撃が通じるほど甘くねえよ」

「まさか。準備運動だろ?」

「強がり言いやがって」

 男の言うとおりだ。守人は油断などしていなかったし全部本気だった。今のも相手のペースに飲まれまいとして発しただけだ。

「それじゃ、もうちょっと遊ぼうか」

 男はそう言うと守人に近づき両手を持ち上げた。そのまま守人に差し出す。

 力比べだ。敵は単純に腕力を競おうと誘っている。

 受けるか? 避けるべきか? 情報戦においてこれは相手に自分の性能を教えるようなものだ。交換ではあるが、安易に受けていい勝負ではない。

『いきなさいファースト!』

(姉さん?) 

 そこへ麗華が叫んだ。

『男の子なら勝負でしょ!』

(そんな理由でいいのか?)

 麗華はこう言うが本当にいいのかどうか。

『ファースト、受けてやれ』

 そこへ牧野から指示がきた。正式に勝負を受ける許可が出る。

 守人は手を伸ばした。ゆっくりと両者の手が近づいていく。

 そして、二人の手が合わさった。

「ん!」

「ぬうう!」

 力と力がぶつかった。まるで竜巻同士がぶつかり合うかのような気迫が二人の周囲を渦巻いていく。

 力は互角だ。両者一歩も引かず押し込んでいく。

「変な服着て、ヒーロー気取りかよ」

「言っておくがデザイナーは俺じゃないぞ」

「服っていうのは着てる本人が責任持つんだよ」

「なんだって?」

 均衡は一向に崩れない。互い軽口を言いながらにらみ合う。

「俺と渡り合うか。お前が誰なのか、ますます気になってきたぜ……!」

 敵の力が上がってきた。守人の手が後ろに下がっていく。

「悪いが、知らないやつに名乗っちゃいけないと教えられてきてね」

 守人も力を上げた。二人とも最初は全力ではなかった。再び手の位置が中央に戻り平行線になる。

『ファースト……』

 二人の様子を麗華が息をのんで見守る。今は互角の勝負を見せているが決着はあっという間だ。情報収集もいいが倒されてしまっては元も子もない。

 もし、勝とうと思えば先手必勝。様子見という戦いではどの道勝てない。

「指揮官」

 麗華は牧野の顔を見た。牧野は自分のノートパソコンを凝視し映し出される映像に見入っている。

 それでも麗華の声は聞いており、また意図も察していた。

 画面を見ながら牧野は思案する。どこまでの力で戦うか。現在と今後を見据え、牧野の思考が答えをはじき出す。

『ファースト」』

 答えはどちらか。決着か。持久戦か。

 牧野は言った。

『倒せ』

 その一言に守人が動いた。相手が押し込む力を利用し後ろに引いたのだ。相手の体が前のめりになる。

 その勢いのまま守人は相手の体をひねり地面に叩きつけた。それだけでなくすぐに拳を顔面に振り下ろす。これが決まれば決着だ。

「だから甘いんだよ!」

 しかし相手もすかさず変身を行う。数十匹という黒い翼に化け散開していく。

 この形態になられたら格闘戦ではどうしようもない。当然のことながら関節技も利かなければ打撃を与えようにも数が多すぎる。その間に体勢を整えられる。

 だが、それは承知の上だった。

 集団になって逃げ出す敵に向け守人は念じた。相手の動きを封じ、宙に固定する。

「なに!?」

 相手の動きが止まった。翼は停止してそのまま空間に浮いている。

 数が多いといってもこれではいい的だ。

 守人は拳を打ち出し一匹を打ち落とした。さらに連続してコウモリを潰していく。

 おそらくだが、このコウモリは集団で個体。一匹でも生きていればあの男は死なない。倒せない。

 逆に言えば、すべてを倒してしまえば殺せる。

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