SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

アンノウン2

 そこで通信が入った。

『ファースト。牧野だ。相手の正体は不明だがコンタクトを取ってきている。とりあえず話を合わせろ。くれぐれも自分の素性を明かすなよ』

 現場の指揮官である牧野から指示がきた。となればこれ以上無口を通すわけにもいかない。

 交渉術に自信はないが、守人はなんとか重い口を開いた。

「ふん。俺が何者か、か」

 ようやく話し出した守人に相手が黙る。そんな相手に今度は守人が余裕を見せつけながら話しかけた。

「最近忘れっぽくてね。俺たちは初対面だったか?」

「ふざけやがって」

 はぐらかす守人に相手が苛立ちを露わにする。問答は無駄だ。どちらも素直に話す気はない。 

「言わないなら実力で聞き出してやる。おい、いいんだよな? もともとそれが目的だろ? ……知るかよ、倒した後で聞けばいいだろ。……そいつは約束できないな、死体でも文句言うなよ」

 相手は通信先の相手にそう言うと守人に顔を向けた。

 戦う気だ。守人は身構えた。武装した兵士と戦う覚悟はできていたが、まさか特異戦力と戦闘になるとまでは考えていなかった。

『ファースト!』

 麗華から心配にひきつった声が聞こえる。この事態に彼女も危機感を抱いている。

『指揮官! 作戦エリアからの撤退を要求するわ! 相手の戦力が不明である以上、戦闘は避けるべきよ!』

 自分にではない。麗華は指揮官である牧野に撤退を申請する。

『……いや』

 だが、牧野は断った。

『その要求を却下する』

『そんな』

『ヘリは近くで待機している。回収部隊も向かっている。相手の情報が欲しい。ファースト、いけるな?』

 牧野からの確認が聞こえる。相手は不明特異戦力。なにもかもが謎の、新たな敵だ。初めての実戦でいきなりの異能戦。

 不確定要素が多すぎる。なにより情報も経験も足りていない。ここは撤退も十分あり得る手段だ。

 だが、ここで逃げていていつ戦うというのか。絶対に勝てる戦いなんてない。

『了解』

 守人の答えは肯定ポジティブ。この戦闘に、参加する。

『ファースト!』

 麗華が叫ぶが今は無視する。やることは決まった。戦闘だ。もとより、そのために存在しているのだ。

「そっちも良さそうだな」

 話がついたのを見計らって男が話しかける。さきほどからだがその態度には不安や危機感というものが見えない。よほど場数を踏んでいるのか、それとも自信家か。

 対して守人は素人だが、けれど負けるつもりなどなかった。

「ならはじめようか。どこの誰か知らないが、やらせてもらうぜ!」

 男が駆け寄ってくる。速い。男は一瞬で近づくと打ち出す拳が守人の顔を狙ってくる。

 守人はなんとか顔を動かしかわした。次にカウンターを放ちパンチがボディに当たる。

 その威力に敵の体が数メートルも吹き飛び建物に突っ込んでいく。壁に穴が空き粉塵が巻き上がっている。

 一拍の沈黙が起きた。が、衝突した穴から男は何事もなかったかのように出てきた。

「なるほどなるほど、代理と侮った俺の落ち度だな」

 瓦礫の山から降り、守人に近づいてくる。

 これを見ていた職員たちは驚愕と確信を抱いていた。

 守人の攻撃は戦車の正面から殴って揺らすほどの威力だ。それを受けて無事な時点で敵の耐久性はG4級ということになる。

 男は走ると守人に再び接近してくる。殴りかかる姿勢を取るが、瞬間、全身が数十匹のコウモリと化し通り過ぎていった。

『後ろ!』

 麗華の声に反射的に振り向く。両腕を顔の前で交えるが、人の姿に戻った敵は守人の腹部を殴りつけた。

「ぐ!」

 腹に衝撃が突き抜ける。さらに相手の攻撃にエフェクトスーツのアーマーが一部砕け散った。銃弾ですらびくともしなかった装甲を剥がしたのだ。

 間違いない。相手はG4級。どこの国の者かは知らないが守人と同じ次世代兵器だ。

 それがなぜこんなところに?
 
 さきほどの意趣返しか相手は守人の腹部を殴りつけてきた。だが守人は耐える。アーマーはひび割れたが自己修復機能が欠損部分を直している。

 守人はすかさず相手を掴み、腕を振り上げた。一撃では倒せなくても何度も殴れば別だ。これで相手を逃がさず殴り続ける。

 それで反対側の手を振り下ろしたと同時、敵は再び全身をコウモリに変え回避していった。

「SCP版 エンジェル・オーバードーズ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く