SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

アンノウン

 第四世代兵器の台頭。それにより時代は変わる。その時なにが起こるのか、誰にも分かるはずがない。

 そこで起こる変化を、今から覚悟しておかなければならないのだ。

 守人は漠然とした予感の中でうなずいた。

 そんな中、麗華の明るい声が聞こえてきた。

『守人君、今回収のためのヘリが向かっているわ。あと六十秒で到着する。それに乗って帰投して。なんて言うか、本当にお疲れさま。おめでとう』

 さきのことは分からない。でも分かっていることがある。

 守人は生き延びた。この初戦を勝利した。その確かな今を、麗華は誰よりも喜び、そして褒めてくれた。

 守人は不透明な不安を隅に置き声を明るくさせた。

「ありがと。姉さんにも助けられたよ」

 守人は戦場を今一度見渡してみた。銃創が刻まれた壁面、崩れた建物。風が吹けば地面に散らばった空薬莢が転がっていく。

 破壊の爪痕がまだ温かい。ここで、自分は戦ったのだ。このときの記憶を自分はきっと忘れないだろう。

 自分の心に刻み込むように、守人は哀愁を宿した目で見つめていた。

「?」

 そこで守人はふと後方を振り向いた。なにか無視できないものを感じる。なんだろうか。まるで内側から肌を刺激されるこの感覚は。

「なにか来るな」

 守人は半身だけでなく正面を向けた。

『? なにか? いえ、接近している熱源反応はないわね。衛生カメラからも近づいている武装兵は確認できないわ』

「いや、確かに来てる」

 気のせいではない。声よりもはっきりと聞こえる。足音よりも確かに感じる。

 守人は視線を上に向けた。彼方の空へ目を凝らしてみる。

 そこには黒いモヤがあった。まるで煙のような。だがよく見てみれば違った。

『あれは、コウモリの群?

 黒い翼を羽ばたかせ、密集した黒い集団がこちらに向かってきている。

『おかしいわ。この時間帯に群で移動するはずない』

 コウモリはもともと夜行性だ。しかし今はまだ昼間。

 コウモリは近づいてくると守人の前方に急降下をはじめた。地面に突撃していく。しかしそれは激突する前に形を変えていった。

 まるで守人のエフェクトスーツの起動のように体が裏返り周りのコウモリと一体化していく。

 それはまず人の足になり、次第に上からどんどん人の姿になっていく。

 すべてのコウモリが集まった時、そこには黒のフードで顔を隠した外套姿の人間が立っていた。

『…………』

 司令室は静まり返った。映像に映し出される不明人物に全員が口を閉じじっと見つめている。

 それは守人も同じだった。

 普通じゃない。明らかな特異性がある。それによる予感が激しく脳裏を刺激する。

 これを目撃していた全員が思っていた。

 まさか、この人物も――

「ずいぶんと派手にやったな」

 しゃべった。司令部に再び衝撃が走る。男の声だった。いったいなにをするのか、警戒感が強まる。

 フードの男はあたりを見渡した。倒れた兵士や崩れた建物など惨状を見つめた後守人に視線を戻す。

「自分から味方を倒しておくとは殊勝なやつだ。決闘気取りかよ。まあ、手間が省けてよかったがな」

 男は陽気に話しかけてくる。その姿勢は緊張しているようには見えない。むしろ余裕すら感じる。

「なんだ、だんまりか。資料じゃ寡黙な男とは書いてなかったがな」

 男は話すが、しかしこちらはなんと言えばいいのか分からない。というよりも出方を伺っている。

 下手なことを話してよからぬボロを出すわけにもいかない。

 すると男はこちらが一向に喋らないことに不信感を覚えたか、急に口調を変えた。

「……お前、ほんとに対戦相手か?」

 男が小首を傾げる。フードで顔は見えないが守人を怪しむ視線を感じる。

 だが守人も口にはしないだけで内心では様々な疑惑が交錯していた。その中でも一番の疑問は今の一言だ。

 対戦相手? どういうことだ? まるで分からない。

 そこで男が勢いよく片手を耳の部分に当てた。おそらくインカムだろう。通信先の相手と話し出した。

「おい、どうなってるんだ? ……なに? じゃあこいつはなんなんだ!? ……不明? ふざけんな!」

 どうやら本来の相手と違うと気づいたらしい。余裕は吹き飛び荒々しい態度で守人をにらみつけてくる。

「おい、てめえなにもんだよ」

 男からの質問に、けれど守人は答えない。これは非常事態だ。敵が誰かも分からず、状況も不明。

 下手なことは出来ない。どんな行動でなにが起こるか、口を滑らせないか分からない。

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