SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

G4始動!3

「く」

 守人からはじめて苦しげな声が漏れた。前方、左右、広範囲に敵がいる。意識がばらける。

 ヘルメットのすぐそばを銃弾が通り過ぎていった。

『ファースト、落ち着いて! まずは一つずつ片づけるのよ!』

 混乱するな。集中しろ。自分に言い聞かせた。ヘルメットから聞こえる姉の声に乱れた思考がまとまっていく。

 守人は側面の建物から出てきた敵めがけ浮遊させた建物の瓦礫をぶつけた。さらに反対側にいる敵を浮かせ壁面に叩きつける。

 その間前方からの銃撃を受けていたが慌てない。まだ余裕はある。

 だが、その場に留まった数秒が相手には千載一遇のチャンスだった。

 戦車の砲口が守人を捉えている。

 来る。守人も見据えた。陸上兵器最大の一撃。それが、発射された。

 巨大な音が鳴り響く。人一人に使うには明らかなオーバーキル。常人なら五体満足どころか部位すら分からないほどに破裂する。

 まさに破壊の一撃であり、現行兵器の洗礼が守人を襲う。

 それを。

 守人は、つかみ取った。

「うそ」

 その光景を映像として見ていた麗華はつぶやいた後で絶句する。なんて握力だ、信じられない。

 守人は発射された弾頭を地面に放り捨てた。巨大な鉄の塊が重い音を立てながら地面を転がっていく。

 守人は戦車めがけ走った。その前進を誰も止められない。勢いをつけた守人は戦車の装甲を正面から殴りつけた。

 戦車が揺れる。五十トンを越える鉄の要塞が地雷でも踏んだかのように上下する。

 ここまで接近されてしまえば戦車にできるのは体当たりくらいだ。だがそれでこの男に勝てるはずがない。

 主砲の一撃、あれを防がれた時に敗北は決まっていた。

 守人は戦車を蹴り上げた。それで戦車は裏返り後退していった。地面を引きずり建物に突っ込んでいく。

 戦車は行動不能。無力化した。

『破壊対象撃破を確認! ジョン・ミラー大尉が喜ぶわよ』

 M1エイブラムスが撃破されたことに敵が逃げ出していった。素手で戦車を破壊する戦場の怪物に悲鳴を上げた。

「うわああ!」「逃げろ! 逃げろ!」

『敵、撤退していくわ! 逃がさないで!』

 守人は逃げていく敵を念動力で引き寄せた。四つん這いになって抵抗する者もいたが目に見えない引力に敵は吸い込まれるように守人に飛んでいく。

 引きつけた彼らを守人は殴り、投げ、最後の一人を蹴り飛ばした。全員壁や地面に激突し沈黙する。

 銃撃の嵐は去った。敵は倒れ、ここに立っているのは守人のみ。戦場の沈黙が彼の勝利を称えていた。

『敵勢力の排除を確認。任務終了よ、おめでとう! やったじゃない!』

 通信越しに麗華の踊るような声が聞こえてくる。きっと通信機の前で本当に小躍りでもしそうなくらい喜んでいるんだろう。

 勝った。よかった。そう思っていた守人に麗華の声は嬉しくもあり気恥ずかしくもあった。

「ありがと」

 大騒ぎの姉に守人は努めて落ち着いた声で返す。

『もっと喜べばいいじゃない! 傷はない? 緊張は? 目眩や頭痛は? ないなら最高じゃない。初戦でいったいどれだけの敵を倒したと思ってるの? この記録は伝説になるわよ?』

「はは。……みたいだな」

 別段思い入れのない伝説だ。個人的にはどうでもいいが姉が喜んでくれるなら守人も悪い気はしない。

『守人君、宗作だ。君の戦闘は見させてもらった。まずはおめでとう。君が無事でほんとうになによりだ。素晴らしい活躍だった。あと麗華ちゃん、喜び過ぎ。プロっぽくないよ?』

『弟が生き延びたっていうのに喜ばない姉どこにいんのよ! っっしやあああ!』

「ありがとな宗作。あと姉さんは酒でも飲んだのか?」

『かもしれん』

『飲んでないわよ!』

『守人君、君の有能性は証明された。今、戦場で君を倒せるものは存在しない。あるとすれば戦略的な兵器か、大規模な空爆くらいだろう』

 獅子王の声調は戦場に相応しい引き締まったものだった。この声を聞くと確かに麗華は子供っぽい。

 守人は見事証明した。多くの銃弾を受けて無傷、戦車すら力でねじ伏せた。その有り様は現代の戦場において圧倒的だった。

 それは否定しようがない。その事実を宗作が言葉に表した。

『君は、間違いなく第四世代兵器だ』

 銃では勝てない存在。超人化を目指した次世代兵器。守人は間違いなくそれを体現した存在だった。

「分かっているさ」

 その事実を受け止めるように守人はつぶやく。

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